この時期になると起床時の肌寒さの具合で外の気温が分かる。今日はあまり暖かくはならないのだろう。
暫く布団の中で身体を温めてから出ようと潜り込んだ。

今日の仕事が昼からだと知らされたのは昨日取り立てを終えた頃だった。
トムさんがそのまま帰っていいぞーと直帰を促す言葉の後に明日は2時くらいな、と随分曖昧な時刻を述べていた。

朝食になるようなものは何かあっただろうかと考えながらそろそろ布団から出ようかと思った時だった。
携帯電話が着信を告げた。音からしてメールなのだが肝心な携帯電話が見当たらない。いや心当たりはある。昨日着用していた服のポケットだ。こういう事はわりと頻繁にある。

メールはトムさんからで今日の仕事は休みになったということだった。
休みだからといってすることは特に無いが録り溜めた番組は見なければと思った。
最近のテレビは好みに合わせて勝手に録画してくれるらしい。その辺の設定はセルティにやって貰っていた。

洗顔等を済まし目が覚めたところで机の上に放りっぱなしだったパンの封を開けてテレビをつける。
録画された番組を適当に選び流しながらパンを食す。
幽がゲスト出演しているバラエティーだ。
番組のロゴの後に今回の内容が紹介されCMに入った。
早送りしようと思った時だ。
室内に来訪者を伝える音が響いた。
マンションの入口に鍵があるようなところではないため相手の顔を確認出来るのは玄関の覗き穴くらいなのだがどうやら相手は宅配業者らしかった。帽子で顔は見えなかったがそんなことはどうでもいい。荷物が何かということにしか興味が無かった。

鍵を開けドアをゆっくり押せば覗き穴越しに見た宅配業者が荷物を持っていた。それは普通のことなのだがその人物が最もよく知る人間だということだ。

「幽?」
「荷物、届けに来たんだ」

上がるよ?と中に入ろうとする幽は至って普通であったがどうにも状況が飲み込めない。


「全然分かんねーんだけど…」

取り敢えず幽を部屋に通し自分はキッチンで適当に飲み物を用意しリビングに行けば幽は自分が先程流していたバラエティーを見つめていた。

「何しに来たんだ?」
「これを渡そうと思って」

幽の手には来た時から数十センチ四方の段ボールのような箱があった。

「誕生日おめでとう。兄さん」

ああ、そうだった。誕生日。
別に誕生日を忘れていたわけではない。毎年贈られてくるプレゼントの存在だ。
幽は毎年プレゼントを贈ってくるのだが中身は役に影響を受けているかのような物なのだ。

「あー…だからこの格好なのか」

丁度一月程前に最終回を迎えたドラマで幽は運送業者の役だった。ドラマ自体は恋愛モノであり幽が演じた役の仕事が運送業というだけで働く描写がそれほど多いわけではない。

「時間があったから直接渡そうと思って」
「そうか。ありがとな…開けていいか?」
「うん」

受け取った箱の封はガムテープだったが剥がしやすいように配慮されていて簡単に開けることができた。

「マグカップ?」
「うん。すぐ壊れちゃうかもしれないけど」

壊れてしまうというよりは壊してしまうの方が正しい。
最近は大分制御することが出来るようになったこの力だが、うっかり力むと壊してしまうことが多々ある。
すぐ壊れると分かっていながら何故マグカップなのだろうかということは考え無くても理解出来た。ドラマではマグカップが物語のキーになっていたのだ。

「あとこれ」

幽が取り出したものは幽らしくないというかデザインが女性向けのようなものでそれが何なのかはよく分からなかった。

「スタッフさんに貰ったものなんだけどせっかくだからこれでミルクティーでもどうかな?」
「おお、」
「ちょっとキッチン借りるね」

そう言ってどうやら紅茶葉だったらしいそれとマグカップを持ってキッチンへ向かった幽は暫くするとマグカップから湯気を立たせて戻ってきた。


「どうぞ」
「おう」

幽は、熱いから気を付けてね、と一言添えて向かい側に座った。

気休めに過ぎないが息を吹き掛けてそっと口をつけ少し傾ければ甘い味がした。

「ん、ウマい」
「良かった」
「幽は飲まないのか?」
「味見したから」

少し的外れな返答をされた気がするが無理に飲ませるのも悪いと思いそのまま流した。

「こうやって毎日兄さんにミルクティーを淹れられたらいいのに」
「…?」

他人よりは幽の考えは理解出来ているのだけれど時々理解出来ないことがあった。

「大切な人と共に日々を過ごしたいと思うことは間違いなのですか?」
「それ、って…」

確かこれは少し前の映画で幽が演じた役の台詞だ。洋画のような邦画だと評されていた気がする。
うっかり流していたがその前の幽の発言もまた最近出演したドラマの台詞に似ていた。

「特別な日には特別なものを贈らないとね」

映像世界で映えそうな言葉と共に差し出されたのは幽が所有するマンションのカードキーだった。

「これが特別なプレゼントになるかは兄さんの気持ち次第だけど」

気持ちまでは分からないから、と幽は少し憂いを帯びたような表情をした。他人から見たらきっとそれはいつものような無表情である。

「迷惑掛けるぞ?」

これまでに何度か一緒に住もうと言われていたがやはり子供の頃の記憶は拭えない。また傷つけてしまうかもしれないと断っていた。それでも幽は大丈夫だと言っていたが自分のせいで仕事に支障を来すようなことになってしまうのは申し訳ないと思っていた。

「俺の方こそ。あの家は記者達にバレてるから出入りする時に兄さんには迷惑掛けると思うけど」
「じゃあやっぱダメだ」
「どうして?」
「その記者達に俺が危害を加えたら幽にも迷惑掛ける」
「それなら俺がここに住むよ」
「え、いや、でもよ…」
「迷惑?」
「迷惑じゃねーけど、広くねーし防犯対策とか出来てねーし危ないぞ?」
「それは大丈夫だよ」

何が大丈夫なのだろうか?人気俳優が防犯対策がまともじゃない家に住むなどあってはならない。何か対策でも考えているのか。

「だって兄さんが守ってくれるからね」

普段紙面や画面で見るような微笑がそこにはあった。大勢に向ける為のものではなく自分一人に向けたものだ。

「本当にいいのか?こんなところで」
「他のマンションをプレゼントした方が良かったかな?」
「それは…」

兄弟とはいえ次元が違い過ぎる発言にどう突っ込んでいいか分からなかったが幽は本気の目をしていた。
幽がそれを望むのであれば止めはしないが自分へのプレゼントと言われればさすがに止めなければと思った。




幸せ、届きましたか

2013/1/28



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