一秒後、一分後、一時間後、一日後。
未来なんて誰にも分からない。
時を刻む音が不安で俺は時計を止めた。
もしも本当に時間が止まったらなんて考えたって実際は着々と時間が経過していくだけだった。
どうせなら過去をやり直す能力とか病気を一瞬で治す能力とかあったらいいのになんて子供じみた発想が頭に浮かんでは消える。
そんな毎日だった。


PDAの呼び出しが掛かったり何か用事がない限り俺は病室に居座った。
他愛ない話をしたり、無言で手を絡めあったりするのはまだもっとこの先何十年も触れていたいと思ってしまうからで。でもそんなことを口にしたらきっと何かが壊れる。

私、ちゃんとお別れ言えるかな
なんて今まで隠してきたであろう弱音は唐突にこぼれた。
そんなこと言うなよ。病は気からって言うだろ?なんて軽いことは言えなかった。そんなことでどうにかなるならいくらだって言うけれどこの状況を作り出している細胞達に言葉なんか伝わらないだろう。
上手い言葉が浮かばない代わりに繋いだ手に力を込めた。





私は真面目に生きてきたつもりだったけれど病にそんなことは関係なかった。
病状は悪化する一方で希望を捨てるなと言う方が難しい。でもやっぱり調子が良い日には願ってしまう。もっと生きられたらいいのにと。



「虎徹くんが泣いてどうするのよ」

もう治らないかもしれないと告げた時のことだった。
病気になった時も入院することになった時も励ましてくれた虎徹くんは希望の薄れたその一言に涙ぐんだ。
まだそうと決まったわけじゃないのにね。

「…すまん」
「まだ大丈夫だよ」

まだ。まだちょっと、あとちょっと一緒にいられるから。だってまだ伝えたいことがたくさんあるんだから。そう簡単に死ねないよ。




明日がくるなら

2013/1/14



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