美術が苦手だからっていくらなんでもこれはないだろう、と渚は思った。
真っ白な年賀状。宛名だけはしっかりと堅い字で書かれているそれは間違いなく怜からで。
何を考えるでもなくまずは本人に聞いてみようと電話をかける。
『もしもし』
「もしもし怜ちゃん?年賀状届いたんだけどねー真っ白だったんだよ!もしかして書き損じってヤツ?間違えて送っちゃったの?」
『違いますよ』
「じゃあ嫌がらせ?」
『れっきとした年賀状です』
「もしかして怜ちゃん未来が見えたりするの?」
『なんでそうなるんですか』
「お年玉くじの当選番号だったりするのかなって」
『番号を知っていたとしてもそう簡単に当選葉書は手に入らないでしょう』
「じゃあ削ったら何か出てくるとか?」
『遠くはないですけどくじから離れてください』
「うーん…ヤギに食べさせたらハガキに書かれた字を読んでくれるとか?」
『渚くんふざけてますね』
呆れられるのはいつもの事だけれどでもやっぱり考えるのは苦手で、どうしても適当な答えになってしまう。
「ヒントは?」
『ヒントですか?そうですね…ミステリー、とかどうでしょう?』
「難易度上がってない?」
『真琴先輩や遙先輩ならきっと今のヒントが無くても分かると思うんですけど』
「怜ちゃん僕のこと馬鹿にしてる?」
『いえ。最初から渚くんは知らないだろうと思っていましたから』
「怜ちゃん意地悪ー」
『普段の渚くんの方がよっぽど意地悪ですよ』
普段のやり取りを思い出してふふふ、とどちらからともなく笑ってしまう。
『では大ヒントを出しましょう。みかんについて某インターネット百科事典で調べてみてください』
「みかん?」
『これ以上は言いません。それでは』
みかんみかんと脳内で繰り返していたら唐突に電話は切られてしまった。
「みかん…」
言われた通り調べるべく検索を掛け目で追う。大ヒントならば見たらすぐに分かるはずだ。
みかん。
甘い柑橘だから蜜柑だとか日本で最も消費量の多い果実だったとか風邪の予防に良いと言われる理由とか皮が七味唐辛子の材料に使われたりするんだとか知らなかったみかんの知識ばかり頭に入っていく。
「絞り汁…」
「年賀状に使う事もある…これだ!」
みかんを使った遊びの一種にあぶりだしというものがあった。そういえば小学校低学年くらいの時にやったことがあったなあ、と思い出しながら携帯電話を閉じて家の中をあちこち歩いた。
ドライヤーとライターとアロマキャンドル。どれもこっそり持ち出した。
部屋に着いてまずはドライヤーでハガキを熱してみる。が、熱が足りないのかあまり変化はなかった。じっくり待つのは苦手だけれど万が一燃やしてしまうのも嫌だから火を使うのは出来るだけ避けたかった。
けれどやっぱり早く見たい気持ちが勝ってアロマキャンドルに火を着けた。
「気持ち悪い匂いだ…」
これなら普通のローソクの匂いの方がいい匂いだと思いながらハガキを火に近付ける。端から順に均等に熱が当たるように移動させれば徐々に色が現れる。
左上から右へと熱していけば右端に「あ」が現れた。ということは恐らく下には「け」があるだろうと移動させる。
「あけましておめでとうございます…」
じわじわと侵食していく様は見ていて面白い。どうせなら絵が見たいと思いながらも字を拾い上げていく。
「昨年はお世話になりました…今年もよろしくおねがいします……」
この時点でだいぶ左側に寄っていてもう既に今まで書かれた大きさの文字が入るスペースは殆どない。まさかこれだけかと思いながら左下あたりを炙る。
そこには既に浮かび上がっている字より一回り小さい字が5つ。

「大好きです」

ぽつりと呟いたその言葉はじわじわと胸に広がって満たしていく。それはまるであぶりだしみたいだと思った。
今すぐに電話をしたいけれど怜ちゃんの事だからきっと出てくれない。分かっているのだ。僕になんて言われるかなんて。
「ハガキ、買いに行かなきゃ」
少しでも早く返事がしたい。その一心で僕は財布と上着を引っ掴んで部屋を出た。
アロマキャンドルを消す余裕はない。きっと帰ってきたら部屋に匂いが充満してるだろうし使ったことだってバレるだろうけど。




文字で伝える愛の言葉

2014/01/01



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