「お父さん、ハンドミキサー出して」
「ハンドミキサー?どこにあんだ?」
「…じゃあ卵割ってて」
「よっしゃ任せろ!」
卵を割るのは得意だ。片手で割れる。これはまあ炒飯ばっかり食ってたから身に付いただけだ。
殻を捨て、軽く手を洗いながら楓の様子を窺えば、手慣れた様子でハンドミキサーの準備をしていた。
「割れたぞー」
「じゃあ砂糖量って」
「はいよー」
広げられたレシピの材料のところから砂糖の量を確認して計量器にボウルを乗せてから砂糖を入れていく。
「よし、こんなもんか」
「ちょっと!」
ハンドミキサーの準備を終えたらしい楓が隣で声を上げた。
「え、何?」
「10グラム多いんだけど」
「いいじゃねーか10グラムくらい」
「失敗しても知らないからね!」
「分かった分かった減らせばいいんだろーはいはい」
「ちゃんと量らないから失敗するんだよ」
「へーい」
砂糖を10グラム分きっちり減らし、計り終えた砂糖を計量器から退けた。
「私が卵混ぜるからお父さんは砂糖入れて?」
「おう」
「3回に分けてね」
3回を強調されたのは俺が一気に入れてしまうのが頭に浮かんだからだろうか。ちゃんとレシピを読めばそれくらい理解出来ることなのに。娘にまで使えない奴だと思われてしまっているらしい。
それから、薄力粉を入れたりバターを入れたり他にもなんか色々入れたりした。混ぜ方にも色々あるらしく、何回か怒られながら工程を進みようやく型に生地を流し込んだ。
トントンと気泡を抜き、余熱したオーブンで焼く。
「終わったー!なんかすっげえ疲れたー」
椅子に座り込んでレシピを眺めていれば、楓はテキパキと後片付けを始めていた。
(楓はきっといいお嫁さんになれるな)
「バーナビー、喜んでくれるかな?」
「こんだけ頑張って作ったんだから喜んでくんなきゃ困るよなあ」
使い終わったボウルやゴムベラを洗う楓と交代してスポンジを握った。
Quatre-Quarts
(まずは上手く焼き上がることを願って)→
おまけ(兎虎)
2012/10/31
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