水泳部の誰かが誕生日になると当たり前のように遙の家で誕生日パーティーが行われるようになっていた。
随分頻度が高いと思ったがそれは6月、8月、11月とあまり間が無かったからだろうと怜は思った。
日々が充実していることがまた関係しているのだろう、とも。

「怜ちゃん怜ちゃん!」
背後に駆け寄る足音は振り返ってくれと言わんばかりに名前を呼んだ。
「なんです、か」
振り返った瞬間、怜が見たのは渚の満面の笑みであった。マズい。何か危険だ。怜がそう思うのと同時に渚は白い塊を怜の顔面に押し付けた。
視界が白くなった怜の耳が拾う音は笑い声とシャッター音だった。
数秒して漸く状況を把握した怜が眼鏡を外せば視力の関係でぼやけてはいるが辺りの物が見えた。
「あー!投げる前にメガネ外すの忘れてたー!よーし!もう一個いくよー怜ちゃん!」
「渚、もうやめとけ」
「ええー?ハルちゃんも見たいでしょ?もっと完璧なのっぺらぼう」
騒ぐ渚に怜は軽く殺意を抱きながら顔中についたクリームを手で払っていった。
「大丈夫か?怜」
真琴からタオルを受け取り顔を拭いながら怜は真琴ならこんなことは止めようと言ってくれたはずだと思った。
「…真琴先輩、なんで止めなかったんですか」
「面白そうだったから」
「僕が怒らないとでも思いましたか?」
「怒りながらも許してくれるかなって」
ごめんね、と眉を上げて微笑む真琴をぼやけた目で見て怜は溜め息をついた。
「真琴先輩が謝る必要はないですよ」
やったのは渚くんですから。そう言い切る前に真琴の背後に忍び寄る影が見えてまたやられると身構えた怜だったがそれは怜の顔ではなく真琴の顔にヒットした。
「ま、真琴先輩!」
「マコちゃんのっぺらぼう!」
笑う渚に何か言おうと真琴はまず口と鼻のクリームを拭って息を吸った。
「なんで俺まで…」
「怜ちゃんに投げようと思ったんだけどね?『真琴にしろ』ってハルちゃんが」
「ハルー?」
「似合ってるぞ、真琴」
「…渚、もうパイ無いの?」
目のクリームを拭い辛うじて周りが見えるようになった真琴は渚の姿を捕えて聞いた。
「残念だけど二つしか買ってないよー」
「チッ」
「怜、クリスマスは逆の立場だな」
舌打ちをした怜に同意するように真琴がこっそり耳打ちをした。
「そうですね」
「ハルーお風呂借りるよー」
台所での作業に戻った遙に真琴がそう投げ掛ければ渋々といった様子で遙は承諾した。
「行くよ、怜」
「え、ちょ」
クリームでベタついた手を取って廊下へと引っ張る真琴に戸惑いながらも怜は軋む廊下の音を聞いた。
前を歩く真琴が笑みを浮かべているとも知らずに。



甘い罠

2013/12/14



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