「んあーさみぃー」
「寝てないでちゃんと案内してください。僕だって眠いんですよ」
「わりぃわりぃ」
テレビ局での仕事の帰り、ちょっと寄り道していいか?と言い出した虎徹に行き先を聞けば返ってきたのは曖昧な方向だけだった。そのまま言われた方へと車を走らせていたのだがいつの間にか彼はうたた寝をしていた。起きたかと思えばおもむろに携帯電話を操作しだした。
「あーまた今日もテッペン越えたなー」
「そうですね」
「そうですねって…それだけ?」
「分かっていたことでしょう」
「あ、バニーそこ左」
「一体どこに寄ろうとしてるんですか」
「曲がれば分かるって」
言われた通り、目の前の交差点を左折した。景色が少し変わったくらいで何があるわけでもなかった。
「あれ?」
「道間違えたとか言わないでくださいよ?」
「いや違うんだけど…あ!いた!あそこ!」
チラッと隣に目を向けて彼が指す方を確認すれば手を振ったり声を上げたりする人達がいることが分かった。馴染みの仲間達だった。
「どういうことです?」
「ええー?ここまで来てまだ分かんねぇのー?バニーちゃん鈍感ー」
あなたに言われたくありません、と出そうになったのをブレーキを踏む事で押さえた。
目の前に並ぶ彼らはそれぞれ遅いと口にしていた様だったけれど、それは車を止め、降りると共に止まっていた。
「せーの!」
『ハッピーバースデー!バーナビー!』
一瞬、何かと身構えれば全員が口を揃えてそう言った。そういえば、と先程日が変わった事を思い出す。
「…ありがとうございます」
「びっくりした?」
「ええ、まあ」
ニヤニヤとする虎徹さんはまるでいたずらに成功した子どものようで、なんだか少し悔しかった。
「ほら、早く中入るわよー!」
ネイサンにそう言われついていくように後に続く。
「バニー、後でメール見てみろよ」
虎徹さんに後ろからそう言われてポケットに手を伸ばせばすかさずそれを止められる。
「後でだって」
「なんなんですか」
「いいからいいから!ほら早く歩けよー」
背中を押されながら入った店内は貸し切りらしく色々と今日のために装飾されていた。感謝の気持ちを述べようと思えば机上に既に空になった酒瓶が見えて待たせてしまった事に少し申し訳なく思いながらグラスを受け取った。
今日はまだまだ眠れそうにないらしい。
始まりの合図
2013/10/31
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