渚と怜が水着に着替え終わり部室から出た頃に真琴がやってきた。いつも真琴と一緒に来ている遙は見当たらないから先にプールにいるのだろうかと思ったがどうやらトイレに寄っているだけらしい。
よって今プールにいるのは渚と怜だけだった。

シャワーを浴びて真面目にストレッチをする怜とは対称に渚はプールサイドの端に駆けて行った。
「ちょうちょ〜ちょうちょ〜菜の葉にとまれ〜…って歌ったら怜ちゃんも止まってくれるの?」
幼児でも実物の蝶を見ながらその歌を口ずさむ事は無いんじゃないかと思いながら怜は渚の歌に耳を傾けていたがワンフレーズでそれは途切れた。
「意味が分かりません」
「ほら怜ちゃん、とまってみて!」
ピシッと腕を揃えて背筋を伸ばす渚に早く早くと急かされどうしようかと考えた末に怜は渚の腕に手を伸ばした。
「…これでいいですか」
「そんなに躊躇わなくても僕に毒はないよ?」
「そういうことではありません。大体この歌の蝶々は浮気性の男の事を喩えていると言われているのでそれと一緒にされると少し不愉快です」
「へぇ…あーそっか、怜ちゃんは一途だもんね!」
怜は渚にぎゅっと手を握られて少し焦りながらも何か言い返そうと思ったが上手い言葉が出なかった。
「でも万が一怜ちゃんがそんなふうにふらふらしてたらやっぱりいい気はしないなあ」
渚は怜の手を握ったまま先程まで蝶が止まっていた花に目を向けたがそこにはもう蝶はいなかった。
「だから怜ちゃんはそんなちょうちょにはならないでね?」
手を放してプールサイドを駆けて行く渚の背中を見ながら怜はそっくりそのままお返ししますと心の中で呟いてストレッチもそこそこにプールに飛び込んだ。




光を求める蛾になって

2013/09/08



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