※DCDネタ





消灯時間になると似鳥はまず二段ベッドの上に上がってズレた枕や掛け布団を直す。
そしてその後にポケットから携帯電話を取り出して少しネットをさ迷う。そうしてから目覚まし時計の設定に入り下にいる凛に電気を消して貰うのだが、体勢を変えようと動いた際、携帯電話が柵に当たってしまいそれはそのまま手から飛び出してベッドの外へと落ちていった。
ガタン、と音を立てて床に不時着した携帯電話は開かれたまま画面を伏せるようなかたちでベッドの側に転がった。
しまった、と梯子を降りようとすればそれを制するように下にいた凛がベッドから出てきた。
「落としてんじゃねえよ」
凛は機嫌の悪そうな声を上げて似鳥が落としてしまった携帯電話を拾った。
「すいません」
ベッドの上から凛が携帯電話を手に取る後ろ姿を見て謝った似鳥だったが凛はそれに反応を見せる事はなかった。
「おい似鳥」
「はい!」
間があって漸く口を開いた凛の言葉には怒気が混ざっていた。
「ちょっと降りてこい」
似鳥は凛が自分の携帯電話を握り締めているのを見てその原因に気付いた。手を滑らした時に電源ボタンでも押してしまったのだろうか。
「いや、あの…」
「踏み潰してもいいんだな?」
「ダメです!」
「降りてこい」
「…はい」
渋々梯子を降りた似鳥に凛は詰め寄った。
凛の握る携帯電話の画面にはメイド姿の凛が写っている。
「盗撮だよな?」
「か、隠し撮りです」
「同じじゃねえか!」
今にも携帯電話を圧し折りそうな凛に怯えながらも似鳥は何とか反論しようとしていた。
「だって先輩、撮らせてくれなかったから…」
「それで盗撮かよ?」
「盗撮じゃありません!」
文化祭の様子をカメラで撮る事を御子柴から命じられていた似鳥は手が空けばシャッターを押していた。そしてそのデジカメには凛が働く姿も捕えられていた。
「いい写真が撮れたら自分のところにも保存しておきたいと思うのは当然のことですから」
「似鳥」
「はい」
「肖像権って知ってるか?」
凛の求める返答を分かっていながら似鳥はそれを敢えて外した返しをしていた。
「あ、妹さんの待ち受けも松岡先輩のメイド姿ですよ」
「はあ?!」
「先輩が着替えてる間に妹さんと話してたんですけどそしたらいつの間にか。だから先輩の写真を待ち受けにする許可は妹さんに得てるんです」
「俺に許可取ってねえなら意味ねえだろ」
「じゃあ許可してくれますか?」
「断る」
凛はそう言って身構えた。普段なら何か頼みを断れば先輩先輩と縋りついてきていたから今回もそうだろうと思って構えていたのだがそれはどうやら違ったらしく似鳥は俯いていた。そしてややあって似鳥は口を開いた。
「…分かりました。この写真は消します。でもその代わり…」
似鳥は言い切る前に凛の側にぐぐっと距離を詰めて携帯電話を奪い返しショートカットでカメラモードを起動させた。
「おい」
「僕とツーショット撮りましょう!ほら、先輩笑ってください!」
「嫌だ!」
「じゃあせめてカメラのほうを向いてください!」
逃げようとする凛の腕を似鳥ががっちり掴んでいた。その手を思い切り振りほどけば似鳥が転んで大きな音を立てる可能性があるため消灯時間を過ぎた今、それをする事は躊躇われた。
そうして凛は舌打ちをしながらカメラに目をやった。
それを見逃さずすかさずシャッターに手を掛けた似鳥がじゃあ撮りますね、と改めて距離を詰めシャッターを押した。そして似鳥は写真を確認して小さく唸った。
「先輩」
「嫌だ」
「まだ何も言ってません」
「じゃあ何も言うな」
「嫌です。先輩、これ写り悪かったのでもう一枚お願いします!」
凛はその携帯電話を本気で折りに掛かろうと似鳥の手元に手を伸ばしたがそれはあっさり躱されてしまった。それに余計腹が立った凛はそのままベッドに潜り込んで、もう寝ると目を瞑った。
その後、本当に寝てしまった凛を見た似鳥が懲りずに寝顔を撮っていた事を凛は知らない。




カメラに収めたあなたの姿

2013/09/03



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