真遙真





「いつまで入ってるんだ?」

学校も部活もない休日、真琴が遙の家を訪れてから一時間が経っていた。
遙は真琴がこの家に来る前から水風呂に浸かっていたのだが一体いつから入っているのだろうか。
「そろそろ上がったら?」
声を掛けるだけでは聞く耳を持たない遙に真琴が手を差し出せば遙は逆らう事無くその手を握り立ち上がった。
遙は真琴より先に風呂場から脱衣場に移りタオルで適当に身体と頭を拭いてスタスタと居間に戻る。遙の後に続いて真琴も居間に辿り着いた。いつも通りのその光景に真琴は苦笑した。

「ハル?」
居間に入ってすぐだった。立ち止まった遙はそのまま振り返って真琴に抱き付いた。
遙の急な行動に驚いた真琴は同時にその意図を察した。
「寒い?」
「寒くない」
「こんなに冷たいのに寒くないわけないだろ」
「真琴がいるから寒くない」
「俺は湯たんぽか何かなの?」
抱き付いて離れない遙の背中を真琴がポンポンと叩き離れるよう促すが無意味だった。
「ハル、ちょっと離れて」
「嫌だ」
「エアコン切るから」
「切ったら真琴が暑いだろう」
「俺は扇風機でいいから」
夏も終わりに近付いているらしく真夏日のような茹だるような暑さではなかったから扇風機だけでも問題ない。だが遙は気を遣ってエアコンを消そうとはしなかった。
「また風邪引いてプール入れなくなってもいいの?」
「…嫌だ」
「じゃあ切ろう?」
真琴の言葉に遙は大人しく腕の力を抜いた。それに気付いた真琴がリモコンを手にしピッとエアコンの電源を落とした。
窓を開けようと足を踏み出したところで真琴は再び遙に捕まった。
「ハル?」
今日は随分甘えてくるな、と思いながら真琴が遙の様子を窺えば遙は小さな声で、まだ寒いと呟いた。
「だから窓開けないと…あと服も」
水着のままなのだから寒くて当然だろうと真琴は手の届く範囲に掛かっていたパーカーを遙の肩に掛けてやった。
「いらない」
「いらないって…」
遙が身を捩ったせいでパーカーは肩から落ちていった。
「真琴がいい」
回された腕により一層力が込められ我儘な子供みたいだと呆れ気味に思いながら真琴も同じように遙の背に腕を回した。
「俺はこんなに身体の冷たいハルは嫌だな」
「なんでだ」
「怖いから」
真琴の腕にギュッと力が入った。
「ハルが実は幽霊なんじゃないかって、怖くなる」
「そんなわけないだろう」
「うん。そんなわけないけどさ、でもやっぱり冷たいよりもあったかい方が落ち着くかなって」
真琴の話を聞いて遙は真琴から離れた。
「ハル?」
「窓開けてくる」
「そっか」
じゃあ俺も、と真琴は別の窓の方へと向かいながらこっそりと笑みを浮かべた。




冷えた身体を温めて

2013/08/29



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