命日だった。
あの日から昨年までの十数年間の命日はお墓に行っていたのだけれど今年は港へ行くことにした。
あの日以来訪れる事の無かった港に行こうと決めたのは海への恐怖心が薄れたからだ。
それでもまだ少し、海は怖い。



港は思ったより静かだった。今日は漁業は休みなのだろうか。船も漁師も見当たらなかった。
太陽の光でキラキラと輝く水面に目を細める。海と空の交わる境界線の先はあの世と繋がっているのかもしれないな、と子供みたいな事を考えながら持ってきた花束を海に流した。
揺れる花束を暫く眺めてから隣で同じように海に目を向けていた人物に目を向ける。
「凛」
一人で来る勇気が無かったため凛に一緒に来て貰っていた。凛もあの日の荒波で大切な人を失っている。
「もういいのか」
「うん」
「じゃあ帰るぞ」
凛の態度が冷たいのはここに長居したら泣いてしまいそうになるからなのかもと勝手な解釈をしながら歩き出した。
「ありがとう、凛」
来れて良かった、と先を歩く凛の背中に感謝の気持ちをぶつければ波の音に紛れて、俺も来れて良かったと聞こえて思わずその背中に飛び付きそうになった。




追憶の花束

2013/08/23



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