また物が増えている。
バーナビーが虎徹の部屋を訪れると毎回何かしら物が増えている。それは大半が衣服やゴミなのだがバーナビーが今目にしているそれはインテリアのように飾られていた。カーテンレールの端に吊り下げられているそれは二つあり、一つはガラス、もう一つは陶器で出来た器を逆さまにし紐と短冊を付けたようなデザインをしていた。
「なんですか、これ」
「ええー?お前風鈴知らねえの?」
そう言うと虎徹は窓側に立っていたバーナビーのもとへとソファーから移動した。
「俺の地元だと夏にこうやって吊すんだよ」
「何のために?」
「何のためっつってもなあ…音を聞いて涼しくなるため?」
「音?」
首を傾げたバーナビーを見て虎徹は階段に置いてあった適当な雑誌を手に取った。
「ちょっとこれで扇いでみろよ」
雑誌を渡されたバーナビーは言われるがまま軽く扇ぐように雑誌を上下させたが風が弱過ぎたようで最初は上手く音が鳴らなかったが少し力を入れればそれはすぐにチリンチリンと音を出した。
「…これで涼しくなるんですか?」
「まあ…気の持ちようだ」
「でもこれ二つなくちゃいけないんですか?形も柄も違いますし音もバラバラじゃないですか」
「普通は一つなんだけどなー」
「じゃあ何故二つなんです?」
「どっちかなんて選べねえんだよ」
そう言って虎徹が目を細めたのをバーナビーは見逃さなかった。
「こっちは友恵との思い出が詰まってる。こっちはこの前楓が送ってきてくれたんだ」
「そうだったんですか」
「まあ窓開ける機会もなかなか無いからこうやって自分で鳴らすんだけどな」
チリンチリンと虎徹が鳴らした音は先程バーナビーが鳴らしたような綺麗な音ではなかった。何故なら虎徹は短冊を風で揺らさずに指で摘んで左右に動かしていたからだ。
「これ、シュテルンビルドでも手に入りますかね?」
「お?なになに?気に入っちゃったの?」
「虎徹さんにプレゼントしたいんです」
「プレゼント?は?え、なんで?」
「大切なものなんですよね、あれ」
「…おう」
「だから僕がプレゼントした風鈴もああやって並べて貰えたら彼女たちと同じように大切な存在だと目に見えて分かるじゃないですか」
要するにバーナビーは形に残る愛が欲しいのだろうと虎徹は推測した。
「目に見えない愛だってあるんだぞ?」
「ということは飾ってくれないんですか?」
「いやだってさすがに3つ目は…」
「貰ってはくれますよね?」
「まあ…」
「でも飾ってはくれないんですか」
「んー…だってなー…風鈴3つ並んでる家ってどうよ?」
「いいじゃないですか。虎徹さんの家に風鈴が3つ並んでても誰も気にしませんから」
「それなんかちょっと傷付くんだけど…」
「だから飾ってくれますよね?」
「うーん…まあいいんだけどさ…」
一つ増えたところで不便はないのだがやはり頻繁に視界に入る事を考えると少し躊躇われると虎徹は思っていた。しかしこれ以上話しても無駄だと考えてバーナビーの意見を受け入れる事にした。
「本当ですか!飾ってくれるんですか?」
「ああ」
「ありがとうございます!そうと決まれば早速…」
そう言ってバーナビーはおもむろに携帯電話を開いた。それを覗いた虎徹はそこに並ぶ文字を見てまさかとその手を掴んだ。
「バニー、何考えてんの?」
「何って…特注で作って貰おうと思って…」
「頼むから普通のにしてくれ」
虎徹はバーナビーが特注する風鈴を想像した。それは自己主張の塊のような柄や色をしていたのだ。きっとあそこに飾ったら側を通るたび気になってしまうだろう。
「普通のじゃないと飾らねえからな!」
「そんな…せっかく僕の顔がプリントされたものをプレゼントしようと思ったのに!」
「ほら見ろやっぱり!」
「何がやっぱりなんですか」
「いやなんでも……とにかく!風鈴ってのはもっとこう…風情のある柄がテッパンなの!だからバニーが買ってくれるっていうならそういうのにしてくれ」
「…分かりました」
「おう」
妙に聞き分けのいいバーナビーに若干不安を感じながら一体どんな風鈴をくれるのか色んな意味でドキドキしながら漸く話がまとまったと虎徹は一息ついた。




一週間後。
虎徹のもとにやってきたバーナビーが持ってきた風鈴は向日葵の絵が描かれたものだった。
「金魚や花火の絵のものにしようと思ったんですが、これの説明を読んだらこっちの方がしっくり来たので」
バーナビーはネットを駆使し風鈴を色々と見た結果、煽り文のような商品の説明に惹かれ購入を決めたのだった。
「説明ってそんな左右されんの?」
「向日葵の花言葉が、ピッタリだったんです」
「花言葉ってまたキザな…」
「僕が知っていた向日葵の花言葉は『私はあなただけを見つめる』だけだったんですが、他にも『あこがれ』や『あなたは素敵』、『光輝』などもあって」
「分かった分かった!ありがとな、バニー!」
なんか恥ずかしいからもうやめてくれ…!と思いながら虎徹はその風鈴を受け取って、既に飾られた二つの風鈴の隣に吊り下げた。
反動で揺れる風鈴の音を聞きながら振り返った虎徹が見たのは嬉しそうなバーナビーの顔だった。




愛の音が響く部屋

2013/08/21



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