カシャッと軽いシャッター音。

「翔ちゃん、もっと笑ってください」
「んなこと言われてもこんなんで気分上がるかよ」

頭上にあるのは人工的な紅葉で、後ろにあるのは緑一色の背景だ。


ついさっきまでここで那月と一緒にバラエティーの収録をしていた。
バラエティーの収録は大体が放送の2週間前にある。今回のセットは2週間後の紅葉の見頃に合わせたらしい。

楽屋に戻って早く着替えようとすれば那月に止められた。なんだよ。
「せっかくですから写真を撮りましょう」
「はあ…まあいいけど」

カメラはどうするんだと思って那月を見ていれば、ポケットからケータイが出てきた。
「お前楽屋に置いとけよ」
「いいじゃないですか〜!こうして写真も撮れるんですから!」
いや、そういう意味じゃなくて。電源は切っていただろうけど、そういうものは現場に持ち込むべきじゃないと思うぞ。


そして冒頭に戻るわけだが。

「翔ちゃん、もっと寄って」
紅葉をバックに那月が手を伸ばし内カメラでツーショットを撮ろうとしていた。

「誰かに頼めばいいんじゃねえの?」
「これでいいんですよ」
ほら、撮りますよ、と言われて仕方なくケータイに目をやった。何がこれでいいんだ?肝心な紅葉は全然写っていない。

「ほら、これなら翔ちゃんと密着出来るでしょう?」
「なっ…!」
周りにスタッフがいるんだぞと言おうとすればそれを遮るようにシャッター音。
「勝手に撮ってんじゃねえ!」
「これは待ち受けにしましょう」
「すんな!消せ!」

「でも、」
「あ?」
「やっぱり本物の紅葉も見たいですね」
「まあ、そうだな」
「今度見に行きましょうか」
「…ああ」
「2週間後、スケジュール空いてますかねぇ?」
「空いてないかもな」
「僕達そんなに忙しくないですよぉ」
「それはあんまり嬉しくないな…」
「今はいいんです。紅葉、絶対見に行きましょうね!」

仮に仕事が入っていたとしても、合間に公園にでも行けば見れるけど。那月が言っているのはきっと、山とかもっとたくさん紅葉のある場所に出掛けようということだ。
別にそれは構わない。見たいし、行きたいし、嬉しいけど、

「じゃあ、その時は僕がお弁当作りますね!」
「……」

弁当を作るのだけはやめてほしい。



秋の景色

2012/09/26



[TOP]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -