ガタンゴトンと一定の感覚で鳴る音に耳を傾けながら怜は本を閉じた。
夏休み真っ最中だが渚と怜は部活の為にほぼ毎日この電車を使用していた。
部活動開始時間は普段の登校時間より少し遅かった為空席もあり普段あまり座る事が出来ない怜も座れていたのだが今日は久々に座る事が出来ないでいた。
それは出校日だったからなのだが都会の出勤ラッシュなどに比べれば十分余裕がありそれほど辛くはなかった。

「どうぞ」
渚が欠伸をした瞬間、目の前に立つ怜が唐突にそう言った。怜のその一言に渚は一瞬別の誰かに向けての言葉かと思ったが視線が合ったためどうやら自分に向けてだと確信した。
怜は紙切れを差し出していたが渚はそれが何かまでは分からなかった。
「何これ?」
「見れば分かります」
早く受け取れと言わんばかりに怜はそれを渚の手に押し付けた。
渚が改めてそれに目を向けてみればそこにはあまり行く事のないバイキングのロゴが入っていてこれはどうやら割引券らしかった。
「どうしたの、これ」
「栞代わりにと本に挟まれました」
今時栞代わりになるようなものは本に最初から挟まっているからきっとこれは栞代わりではなく単にそういう義務で店員は差し込んでいるのだろう。
「怜ちゃんはいらないの?」
「僕はあまりこのような場所には行かないので」
「もしかして偏食とか?」
「違いますけど」
「じゃあ一緒に行こうよ!」
車内にしては少しばかり大きな声を出した渚に怜がすかさず静かにしてくださいと注意した。
「僕なんかより他の人と行ったらいいじゃないですか」
「ボクは怜ちゃんと行きたいの!」
「だから静かに…」
怜は再度声の大きさを注意しようとしたが途中で渚に腕を引かれそれは途切れた。怜は少し屈むような体制になってしまい吊り革から手を離したため前のめりに倒れそうだった。しかしそれと同時に立ち上がった渚がその身体を支えどうにかバランスを崩さずに立っていた。
「一緒に行ってくれる?」
渚は先ほどとは打って変わって怜の耳元で怜にしか聞こえないような声でそう言った。
「っ……」
怜が言い淀んでいるのを見て渚はその顔を覗き込んだ。
「…いつですか」
怜の腕を掴んでいた渚の手が離れたため怜は再び吊り革に掴まりながらそう言った。
「一緒に行ってくれるの?」
「予定が空いていれば」
「んーじゃあ今日は?」
「今日、ですか…」
「なんか予定あった?」
「いえ、特には」
「じゃあ決まりだね!」
やったー!とはしゃぐ渚に怜は再び注意する事になりやはり断るべきだったかもしれないと早速後悔をしたが断ったとしても渚はなんでどうしてと騒ぐだろうと想像が出来てしまい少し呆れながら静かにしてくださいと呟いた。




君とならどこへでも

2013/08/01



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