リアカー付きの自転車を全速力で漕ぎ緑間の家まで向かえば既にそいつは玄関先にいた。
「遅いぞ高尾」
「ごっめーん!めざまし鳴んなくてさ」
真ちゃんがモーニングコールしてくれたら起きれたのにと思ったが口に出すと益々怒られそうなのでやめた。

「早く行くぞ」
「ちょい休憩〜」
「朝練に遅刻して怒られるのはお前だぞ高尾」
「へいへい」
緑間は別に練習に遅れようが先輩に申し訳ないなどとは思っていないのだろうし遅れたところで怒られるのはオレなのだからコイツはただ早くバスケがしたいだけなのだろう。口には出さないが。

「たまには真ちゃんが漕げよー」
これはたまに、例えば疲れた時なんかのオレの口癖だ。漕いでくれるとは思っていないが労いの言葉の一つや二つ掛けてくれればいいのにと思うのだ。だけど決まって返ってくるのは、じゃんけんに勝てたらなという真面目な緑間らしいルールに沿った言葉である。が、
「漕いでやってもいいのだよ」
「え…マジで!?ちょ、何?真ちゃん熱でもあんの!?」
リアカーから降りた緑間のおでこに触れようと手を伸ばせば、触るなと弾かれた。

「どういう風の吹き回しだよ」
「別に一回くらい漕いでみてもいいかと思っただけだ」
「マジでいいの?てか真ちゃん漕げる?」
「馬鹿にするな」

「まあ真ちゃんがいいって言うなら」
お言葉に甘えて、とサドルから降りてリアカーに乗り込む。

「高尾、」
受け取れ、自転車に跨る緑間はそう言ってこちらに何か投げた。
「何これ」
キャッチしたそれは丸まったアルミホイルらしきものだった。

「おは朝は見たか?」
「いんや。バタバタしてて見逃しちゃった」
寝坊してニュースのコーナーなんかは見逃したが占いのコーナーだけは見た。ただ手の中のこれと占いが結びつかないため緑間が言うおは朝見たか?というのはきっと占いではないと思ったのだ。

「お前のラッキーアイテムだ」
「ラッキーアイテム?アルミホイルが?」
今日のさそり座のラッキーアイテムってアルミホイルだったか?とつい数十分前のことを振り返るも思い出せなかった。
ていうかいつもは自分の分だけなのになぜ今日はオレの分のラッキーアイテムまであるのだろうか。

「開け」
丸まったアルミホイルを広げてみろということだろうか。カサカサと音を立てながらアルミホイルを捲っていけば黒と白のそれがあった。ああ、そういえばこれだった、さそり座の今日のラッキーアイテム。

「おにぎり?」
「学校に着くまでに食べておけ」
「えっと、もしかして真ちゃんの手作り?」
「今日だけだ」
「うおお!マジで!?」
「味の保証は出来んぞ」
「真ちゃん、」
「なんだ」
「あんがとな!」
「…さっさと食べるのだよ」
「そうしたいんだけどさ、食べたらラッキーアイテム無くなっちゃわね?」
ていうか真ちゃんの手作りおにぎりとか貴重過ぎて残しときたいっていうのと早く食べてみたいっていうのが半々でどうしたらいいのか分からない。

「コンビニで買えばいいだろう」
「真ちゃんまた作ってくれる?」
「なぜだ」
「これが最初で最後だとしたら食べるの勿体ねえじゃん」
「知らん。いいから早くそれを食え」
食えと急かされて、とりあえず半分食べて半分取っておくことにしておにぎりに噛り付いた。食えと言い放った本人は自転車を漕ぎだした。

「ん、うまっ」
ご飯全体には薄く塩味がついていて、真ん中には梅干しが入っていた。普通のおにぎりのはずがこんなに美味しく感じるとは。
残しておきたいと思うが味が落ちるのも嫌だと思い結局全て食べてしまった。
おは朝の占いがまたラッキーアイテムをおにぎりと示すことを願いつつアルミホイルに張り付いたご飯粒まで残さず食べようと思いきちんと広げた。

(真ちゃん可愛い過ぎんだろ…!)

おにぎりを食べ切らなかったら気付かないようなアルミホイルの真ん中には、誕生日おめでとうと油性ペンで書かれていた。
朝はバタバタしていて忘れていたが今日は俺の誕生日だったのだ。

「真ちゃんは不器用さんだね」

そう言うと緑間は何のことか分かったのか自転車を漕ぐスピードを上げた。照れ隠しなのだろうが風でなびく髪からのぞく耳が赤くなっているのが俺にはよく見えた。



不器用なおめでとう

2012/11/21



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