今日のおは朝が示した明日の緑間のラッキーアイテムはケンタウロスのぬいぐるみだった。
そんなん売ってるわけねえだろと思ったのも束の間、携帯電話がメールの着信を告げていて開けばやはり、緑間からだった。
『遊園地にあるのを見た』
誰が十文字以内で答えよ、なんて言った。主語はどうした。
遊園地に何があるのを見たのか、それがどうしたというのか。
まあ分からなくはないんだけどそれにしたって言葉が足りない。
遊園地にあるのを見た、を正しい日本語に直すなら、遊園地にケンタウロスのぬいぐるみがあるのを見たから手に入れに行くぞ早く迎えに来るのだよ、だ。
はいはい分かりましたよっと思いながら了解とだけ打っててきぱきと出掛ける支度を始めた。
▽▽▽
「ケンタウロスのぬいぐるみとかぜってーかわいくねえから」
リヤカーのない自転車は随分軽くすいすいとあっという間に緑間邸に到着した。
門の向こう、玄関のドアの前の階段に座り込む緑を発見して放った第一声がそれだった。だってそんなケンタウロスなんてデフォルメしたってかわいくなんてならないだろう。
ここに来るまでずっと頭にあったのはケンタウロスと緑間の事だった。危うく合体しそうになった二つを引き離して自転車を漕ぐ事に集中していたのだけど緑間を見た瞬間思い出してしまっての第一声だったのだけれど緑間はそれをスルーして、早く行くぞと立ち上がった。
▽▽▽
入園してすぐに広がるのはカラフルな建物やアトラクションで、それに気を取られるのは当たり前というように写真を撮る親子がいたりするのだが緑間はそんなものお構い無しというように先を歩いていく。
あれに乗りたいこれ面白そうと声を掛けても大した反応は見られない。これは先にラッキーアイテムを手にしなければダメだと諦めてついていけば辿り着いたのはお土産が売っている建物だった。
ラッキーアイテムはてっきりゲームの景品とかだと思っていたから拍子抜けだ。すぐ手に入るじゃないか。そう思っていたのだが。
「あれだ」
緑間が指す先は土産物コーナーではなかった。
だが間違いなくケンタウロスのぬいぐるみがある。予想通り可愛くない。いや、それより…
「これオレ来る意味あった?」
ぬいぐるみの飾られている隣にはバスケットゴールがある。つまりそういう事だ。フリースローで一定の数以上ゴールを決めればぬいぐるみは手に入るわけだ。あの緑間が外すわけないだろう。
まさか一人で来るのが恥ずかしかったとか?いやいやコイツに限ってそれはない。
「そこで見ていろ」
言われなくても、と邪魔にならない位置で店員に金を渡す緑間を見守った。
それからはもういつも通りの光景だった。一発も外す事無く次々とシュートを決めればあっという間に目標点に到達し、無事ケンタウロスのぬいぐるみを手に入れる事が出来た。
更にはノーミスだったからと別の景品まで貰える事になりこの中から一つどうぞと完璧な営業スマイルでお姉さんが対応しているのに緑間はまるで興味がないように高尾、お前が選べなんて言うもんだから緑間の手元だけでなく俺の手元にもぬいぐるみがおさまっている。一つ違うのは俺の持つぬいぐるみはケンタウロスではないということだろうか。
▽▽▽
「真ちゃんあれ乗りたい」
建物から出てすぐ見えた観覧車を指差した。妥協案だった。
ジェットコースターやフリーフォール、コーヒーカップやメリーゴーランドなんかはきっと却下されるだろうな、と行き着いたのが観覧車だった。
指を差し見上げていた視線を下げれば観覧車の真下で同じように指を差している子供がいて自分の精神年齢はこんなに低いのかと少し凹んだ。
「あんなのでいいのか」
「え?うん?」
「お前はてっきりジェットコースターに乗りたいと言うものだと思っていたのだよ」
「いや、真ちゃんが恐がって乗ってくんないかなって」
「あの程度別に大したことないだろう」
「じゃあ一緒に乗ってくれんの?」
「さっきからそう言っているのだよ」
「そっか」
なんか今日は調子が狂うというかいつもと違うなあと思いながらも緑間の手を取って引っ張るように一歩先を歩いてみれば、おい、と声が掛かったから振り返れば緑間は案の定手を振りほどこうとしていて仕方なく放してやる。
「…せめて乗るまで我慢しろ」
乗ったらいいのかよ、とは口にせず小走りにジェットコースターの列に並べば、ゴゴゴ、と頭上を走るコースターがうるさく轟いていたからその音に紛れて後でぜってー観覧車乗るわと呟いた。
気が付けばデート
2013/10/06
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