織姫と彦星。正確な星の名前は覚えてない。ベガ?アルタイル?まあよく分かってないけどそれを見上げたとして、一年に一度しか逢えないなんて寂しいよな…みたいなことを言うつもりはないし言ったところで返ってくるのは、自分のやるべきことに人事を尽くさないのが悪いのだよとかなんとかでロマンチックでも無ければメルヘンチックでもないただの現実だ。
雨降ってるから二人は逢えないのかーとか言っても同じだ。
ていうか今どきそんな会話するカップルがいたら絶対どうかしてると思う。
まあ一番どうかしてるのはそんなこと考えるオレなんだけど。
「宇宙に雨なんか降らないのに」
「何の話だ」
「あ、いや」
うっかり口から出ていたらしい。真ちゃんもなんで拾うんだよ。いつもならスルーなのに。
「よく言うじゃん?雨降ったら天の川が増水して織姫と彦星は逢えないとか」
「雨が降って天の川が増水した場合、カササギが飛んできて翼をつらねて橋となり、二人を無事に会わせてくれると言われている。だから逢えないわけではないのだよ」
「へえ…」
予想の斜め上というか予想通りというか。1訊けば10返ってくるのが真ちゃんだけどこういう話も詳しいのか。
「でもそれって神話じゃん。実際の星ってそんな風に見えるもんなの?」
「二つの星の実際の距離はおよそ15光年離れている。よって二つの星が接近して見えることはない」
「そっか」
星がくっついて見えないのにじゃあなんでそんな神話が星につくんだよとか色々思ったけどこれ以上訊くのはやめた。バスケと勉強で真ちゃんに挑むと大体負ける。
「真ちゃんはもし一年に一回しかバスケ出来ないってなったらどう思う?」
俺とお前が彦星と織姫ならお前は俺に会うために毎日人事を尽くしてくれるのかと訊いたらどんな答えが返ってくるんだろうなと考えつつも別の質問を投げ掛けた。
「…それは今の話か?それとも将来か?」
「え?うーん…今」
まさかそんな話真ちゃんがするとは思っていなかったからなんとなく訊いただけなのに。冷たい目で一瞥されるかと思っていたのに。
現在か未来か。将来は仕事の関係とか歳の関係でゆくゆくは出来なくなるからどうせなら今の話が聞きたいと思った。
「一年に一回ということはあの環境でバスケをするのは今の一回しかないということだ。それは次の年も同じで、その環境でバスケをするのは一回だ」
「うん」
「織姫と彦星はずっと同じ環境だが、一年に一度しかバスケが出来ないというのはずっと同じ環境ではないだろう?」
「そうだな」
真ちゃんが言いたいことは多分、このチームで出来るのは一度ということだ。このチームとの別れはいずれ訪れることでだからこそ負けてられないのだ。つまりそれほどまでにこの環境でするバスケに夢中で、大切で、好きなのだと思う。
なんて不器用な伝え方。
「真ちゃん、頑張ろうな」
拳を合わせることも握手をすることも抱擁することもないけれど、ただ眼鏡のブリッジが上がったのを見れただけで十分だった。
天の川に四苦八苦
(本当に訊きたかったのはこれじゃない)
2013/07/07
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