「テツーどうしたー」

練習中、黒子の様子がいつもと少し違うことに気付いた青峰はキリのいいところで声を掛けた。

「いえベツに…」

「いつもより動きワリィじゃん」

「ちょっと蚊に刺されたみたいで気になってしまって…青峰くんムヒ持って…るわけないですよね…青峰くんの血はあまり美味しそうじゃないですもんね…」

そう言いながら黒子は左足首あたりを痒そうに掻いていた。

「どういう意味だよ」

「見た目がなんか不味そうじゃないですか」

「不味くねーよ。多分」

血の味の違いなんて分かるわけないだろう、と思いながら青峰はとりあえず他の部員の邪魔にならないようにと黒子と共に体育館の隅に移動した。

「そういうお前は味薄そうだな」

言い切ってすぐ、青峰は黒子の首筋に舌を這わせた。

「な、にするんですか…!」

「しょっぺえ」

「当たり前ですよ舐めただけで血の味がするわけないじゃないですか」

「塩分補給だからいいんだよ」

暑さのせいだろうか言い返すのも面倒になった黒子は会話を本題へと切り替えた。

「…それで青峰くんムヒは?」

「持ってるわけねーだろ」

「やっぱり蚊に刺されたことないんですか?」

「あるっつーの」

「じゃあムヒの一つくらい持っててくださいよ」

「八つ当たりかよ!…ったく…」

青峰は体育館内を見回し目的の人物を探した。目的の人物はものの数秒で視界に捕えることが出来た。

「おい黄瀬ー!」

少し離れたところで練習中の黄瀬はその声に招かれ小走りに此方へ来た。

「どうしたんスか?」

「お前ムヒ持ってるか?」

「ムヒ?あー…多分鞄の中に入ってると思うけど…ていうか青峰っちでも刺されるんスね」

「お前もテツと同じようなこと思ってんのかよ?」

「なんのことスか?」

青峰のことをなんだと思っているのか黄瀬も黒子も青峰はあまり刺されるイメージがないらしい。
そんな青峰と黄瀬のやり取りを見ていた黒子は黄瀬の滑らかそうな肌を見て呟いた。

「黄瀬くんの血は美味しそうですよね」

「…く、黒子っちって実は吸血鬼だったりするんスか…?」

「そんなわけないじゃないですか」

「もう!黒子っちノリ悪いっス!」

「そんなことより早くムヒを取ってきてもらえますか」

「ん?ああ、刺されたのは黒子っちだったんスね!ちょっと待っててくださいっス!」

そう言って黄瀬は嫌な顔一つせず部室へと走っていった。嫌な顔どころか楽しそうな顔をしていたように黒子には見えた。

「なあ、」

「なんですか?」

「ん」

「…どういう意味ですか?」

青峰は黒子の顔の目の前に手を差し出したがそれがどういう意図なのかは黒子には理解出来なかった。

「ちょっと思いっきり噛んでみろ」

「…バカですか…そんなの自分でやってください」

「不味いかどうか確かめてみろって!」

「不味いに決まってるじゃないですか。血の味なんてみんな一緒ですよ」

黒子はなぜこんな頭の悪そうな話をしているのだろうかと思いながら練習中のチームメイトを眺めていたら赤司と目が合った。サボりに見られただろうか。

「ああ、赤司くんに噛んで貰ったらいいんじゃないですか?人の生き血とか飲んでそうじゃないですか」

「お前それアイツに聞こえてたらどうすんだよ」

「ボクの体内から血が抜かれることになるんじゃないですかね」

「そういう話はもう少し暑くなってからにしてくれ」

「血を抜くと死体を運びやすくなるんですよね」

「オレが変なこと言ったせいだったら前言撤回するからもうやめとけ」

「さすがにボクもちょっと言い過ぎた気がします…赤司くんの視線が痛いです…」

「やっぱ聞こえてたんじゃねーの?」

「まあ悪口ではないですしきっと大丈夫ですよ」

「俺知らねーかんな」

そうこうしている間に黄瀬がムヒを持って帰ってきたため黒子はようやく少し楽になる、とその場に座り込んでムヒを塗る体勢になった。




狙われた血の味

2013/06/15



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