室ちん。そう呼ばれて差し出されたものはてっきり頂戴と強要されるだろうと思っていたそれだった。

「オレがいちばん好きなヤツだからおいしいと思う」

食べてみて、と言われ開けようとするが不自然なことに気付いた。

「敦、」
「何?」
「パッケージが開いているんだけど」

その箱はよく見ると既に開封された跡があり、中を見るといくつかチョコが消えていた。

「ちょっと食べたくなったから」

なんとも敦らしいがそれでもちゃんと残して置いたところは褒めるべきだろうか。

「もう一箱買えば良かっただろう?」
「お金無かったし」

自分の食べたいものを我慢してまで買ってくれたらしいがやはり食べたいのだろう。先程から目線はチョコに向いている。

「食べていいよ」
「いらないの?」
「敦が食べたいなら」
「嬉しくないの?」
「嬉しいよ」
「室ちんに食べてほしいから買ったのに」
「でも敦、食べたじゃないか」
「それはいいの」

いいから食べて、と無理矢理口に押し込まれたそれを口内で転がせば柔らかく溶けていった。

「敦がつまみ食いをする理由が分かったよ」
「3倍返ししてくれるんだよね?」
「3倍返し?」
「ホワイトデーはバレンタインの3倍返しって言ってた」
「へえ」

アメリカに住む前からホワイトデーの存在は知っていたが3倍返しは初めて聞いた。

「3倍って具体的にはどのくらいなんだ?」
「食べたことなくておいしいヤツがいい」
「それは難しいな」

敦の味覚に合うもので敦が食べたことのないものとなると探すのに苦労するだろう。

「ホワイトデー、デートしよう」
「デート?」
「オレだけじゃ敦の望む3倍を探すのは難しいからね」
「それって口実ってやつ?」
「ちゃんとした理由だろう?」
「約束破って女の子とデートするんじゃないの?」
「しないよ」
「だって室ちんたくさんチョコ貰ってたしソイツらにもお返しするんでしょ?」
「敦にしかしないよ」
「じゃあそのチョコちょうだい」

嫉妬だろうかと内心嬉しく思っていたらやはり色気より食い気なのか女の子達から貰ったものをくれと言った。

「食べたかったのか?」
「んーん。捨てんの」
「食べ物を粗末にするのはいけないな」
「ダメ?」
「いや、それで敦の気が済むならいいよ」

貰った瞬間から食べようとは思っていなかったそれはやはり口に入ることはないらしく目の前で無惨に廃棄された。




塵となった一方通行の愛

2013/2/14



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