※同棲それはもう大発見だった。
別に見つけたくて見つけたわけじゃない。
喜ばしいわけでもない。
掃除なんてらしくないことをするとろくな目に遭わないな、と思いながら摘みあげたそれを日にかざす。
どう見たって髪の毛だ。岩ちゃんと同じ黒で、けれど長さは岩ちゃんの数倍。
つまりこれは、ここに住まう二人以外の他人のもの。それがまさかベッドの上から見つかるとは。
もしかして、と一昔前のドラマでも無さそうな展開に焦った。
浮気、だろうか。
夜はいつも一緒だし、だとすれば昼間互いに別行動をしている間だろうか。自分が朝早く家を出た後、岩ちゃんは女を連れ込んでいたのだろうか。
「何してんだ?」
「岩ちゃん…」
「ただいま」
スーパーかコンビニかどこかの袋と鞄を隅に立て掛けるように置いた岩ちゃんを見てとりあえず髪の毛は後ろ手に持った。
「…俺がいない間に誰か呼んだの?」
「いや?」
「うそだ!」
「うそじゃねえよ」
「じゃあ何これ」
後ろに組んでいた手をぐいっと前に突き付けるように出した。
「あー…」
気まずそうな間がもう限りなく黒に近い白で誤魔化される前にと詰め寄る。
「何!」
「いや…別に」
「言ってよ!」
押せば折れるはずだと強く出れば岩ちゃんは深呼吸にも溜め息にも見える息を吐いて口を開いた。
「実は…」
そう言いながら岩ちゃんは頭を持ち上げた。別の言い方をすれば、髪を外した。そしてその見慣れた髪型の下から現れたのは黒いロングヘアだった。
「岩、ちゃん…?え?何?どういうこと?」
「今まで隠してて悪かったな」
今まで?今までというのはどういうことだ。何を隠していたのか。髪型?それとも性別?性別だとしたらそれはなんというか…。
「…本当に?」
「なんで泣いてんだよ」
「だって、岩ちゃんが女の子なら結婚も出来るし赤ちゃんも産めるんだって分かったら嬉しくて…そりゃあ出来れば立場逆の方がいいけど…」
「…あー…泣くな。わりぃけどこれ全部ウソだから」
サラっと告げられた事実に、え?と声に出したつもりの音はどこかに消えてしまった。
巻き戻しを見ているのかと思った。岩ちゃんの黒髪ロングはあっという間に外れ現れたのは見慣れたあの髪型だった。
「仕掛けられてばっかも癪だし今年は仕掛けられる前にやってやろうと思ったんだよ」
「ひどい…」
「まさかこんなの信じるとはな」
「酷いよ岩ちゃん!俺の夢返して!」
「は?夢?」
「結婚式はやっぱりジューンブライドがいいかな、とか子供と同じ誕生日にするには子づくりはどのタイミングがいいかな、とか」
「お前一瞬の間にそんなこと考えてたのかよ…」
「だってそんな…ああもう!なんで!何?なんかもうわけわかんない!このベッドの髪はたまたまなの?わざと落としといたの?」
捲し立てるように岩ちゃんに迫れば面倒くさそうな顔で頭を撫でられた。
「わざとじゃなかったらズラとか被んねーよ」
「岩ちゃんのバカ!詐欺師!」
「その詐欺師お前くらいしか騙せないだろうな」
「もう俺だって騙されないよ!廃業だね!ざまあみろ!」
べーっと舌を出してやれば岩ちゃんの逆鱗に触れたのか手が出てきて頭を叩かれた。
「ちょっと!舌噛んだらどうすんの!」
「噛めばいいだろ」
「じゃあ岩ちゃんが噛んでくれる?」
「断る」
「断る理由もないのに?」
「噛む前に逆に噛み切られそうで嫌だ」
「じゃあちょっと試してみようよ」
互いの息が掛かるくらいに近付いて視線を逸らさずにそう言えば岩ちゃんは案外簡単にそれに乗った。
実際に噛んでしまったらきっと一生こんなに気持ちのいいキスは出来ないから舌を噛むなんて嘘だった。
擦り合わせて、時折軟らかく歯を立てて。けれど背筋に走るのは噛まれてしまうかもしれないという恐怖感などではなく幸せに満ちていた。
生まれ変わらなくても愛してる
2014/04/01
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