自分の誕生日ケーキは自分で作る。
小学生の時、普段ケーキを焼くのに使わないような器具や材料を誕生日プレゼントとして買って貰ったのが始まりだ。
しかし中学に上がれば周りが色々と用意してくるから自然と作らなくなっていた。
だから久々に作りたくなって、朝から材料を買いに行ったりして昼と夕方の間みたいな時間に家に戻ればちょうど家族は出払っていて気兼ねなく調理が出来ると思っていた。

「なんでいるんだよ、安形」
玄関の鍵が掛かっていなかったこと、踵の潰れた靴があったことから予想はついていたが勝手知ったる他人の家みたいな居座り方はどうかと思う。
「この時間あんまり面白いテレビやってねーのな」
「人の話聞いてたか」
テレビに映る映像は明らかに今放送している番組ではなくレコーダーに録ってあった番組だった。
「今からケーキ作るから安形の相手してる暇ないからな」
「知ってる知ってるおばさんに聞いた」
じゃあなんで帰らずここにいるのかと思ったがなんとなく聞くのが面倒くさくなってそのままキッチンに向かった。



まずスポンジを焼いて、それからスポンジが焼き上がるまでの時間を利用して生クリームを泡立てたりして準備をする。作業の間に何度か安形の方に目を向けてみたけれど寝ているのか微動だにしていなかった。



ケーキも完成し後片付けも終えた頃、安形はちょうど今起きたかのような伸びをしていた。
「おはよう」
「あー、おう」
「昼寝しに来たの?」
うちのソファーはそんなに寝心地良くないと思うんだけど。
「ケーキ出来たのか?」
「うん」
「食わせろ」
「何様だよ」
作ってるの知ってて食べるって言わない方がおかしいけどでも言い方ってもんがあるだろう。少し納得はいかないがまあ食べて貰う人が家族だけじゃあつまらないから出すけど。
机を拭いて皿とフォーク、それから紅茶を二人分用意して冷蔵庫にしまっていたケーキと包丁を運んだ。
「おほっやっぱすげーな!」
良かった。これでリアクションがなかったらさすがにキレてたかもしれない。
「どの辺食べたい?」
「いやお前が作ったんだからお前が一番に選べよ」
「そういうところは気が回るんだな」
とりあえず包丁を構えながら家族に残しておく分を考え切り方を考えた。
「なあ」
「ん?」
「ローソク挿さねえの?」
「いらないかなって思って買わなかったけど」
「あれないと誕生日ケーキって感じしなくね?」
確かに寂しい感じはするが無いものはしょうがない。遠慮なくケーキに包丁を入刀した。
自分の分を先に皿に移して、同じくらいの大きさの部分を安形にも切り分けた。
「歌とか歌った方がいいか?」
「いらないいらない」
なんか照れくさいし。
「じゃあ、誕生日おめでとう」
紅茶の入ったカップを持ち上げてそう言う安形にありがとう、と同じようにカップを持って乾杯した。
一口紅茶を口にしたところで向かい側からウマいと声が上がって嬉しくなった。


「プレゼントやっぱ買っとくべきだったな」
ケーキも残り一口という時だった。
「どっか連れ回そうと思ってたから買うのそん時にしようと思ってて今なんもねえんだわ」
「ケーキ食べに来てくれたし別にいいよ」
実際はケーキを食べに来たわけではないのだけど。こうやってケーキを食べる相手が家族以外にいることが嬉しいと思った。それだけでいい。
残りの一口を口に運んだところで安形が不服そうにしているのが見て取れた。
「やっぱ一曲歌うわ」
「いやいいって」
自信満々に立ち上がった安形を見ながら空になった皿と半分になった残りのケーキをキッチンに運べば後についてきた安形がバースデーソングを歌いだした。
面と向かって聴くのは恥ずかしいと思い、残りのケーキにラップを掛けようと安形に背中を向ければそれをいいことに密着してきた。
歌が終わってもなお退こうとしない安形に文句を言ってやろうと振り返ればニヤニヤと笑みを浮かべていて何だよ、と呟けばおめでとうと今度は真剣な顔をして言った。
「…何がしたいんだよ」
「その顔が見たかった」
どの顔だ、と言ってやりたかったけど多分赤くなってるんだろうと分かったから顔を背けた。
なんで今更こんなことで赤くなってんだ。
抱き締められたその腕の中で思う事はその顔の事とこのまま流れに身を任せてしまってはケーキを冷蔵庫に入れ損ねるということだった。



原因はそのギャップ

2013/10/06
2nd anniversary
& 100000hits




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