「あら、いらっしゃい」

花屋のおばさんは顔見知りだ。
最初に来た時は母ちゃんとルミと一緒だったが、いつだったか一人でこの店に来た時はどの花を選んだらいいか分からずおばさんに色々相談してもらったことがあった。

「今日は何買いに?」
「墓参り用の花っすよ」
前に来た時は白ユリ、白菊、カスミソウだったっけ。
「今日はけっこうお金持ってきたんで」
「そうなの?おまけしようか?」
「いいですいいです」
「お金があるなら、これとかどうだい?」
「いや、あんま高いのは買えないんで」
「さっきお金あるって言ってたのにねえ」
おばさんは笑いながらも真剣に色々選んで勧めてきてくれた。

「あ、じゃあこれで」
選んだのは、白オリエンタル系ユリと白トルコキキョウとグリーンカーネーションの束らしい。
ホントはもっと華やかな色の花を選ぶつもりだったが、直感でこれだと決めた。




一人で墓参りに行く時は線香を供えたりしない。
確かに亡くなってはいるけれど、いかにもな死人扱いはしたくないからだ。
ばちあたりかもしれないけど、父ちゃんも波瑠母ちゃんもそんな哀しい扱いは望んでいないはずだ。
母の日に花を渡すような、父の日にネクタイを渡すようなそんな感じだ。


薄暗い墓地は少し不気味だが、人がいないわけではないし怖いとは思わない。
墓地の出入口で桶と柄杓を借り、水を汲む。
正しい墓参りの仕方は知らないけれど、母ちゃん達と来る時にやってる手順でいつも進める。

何列にも並ぶ墓石の道を進めば、どうやら先客がいたらしく墓石周りの掃除をしているのが遠目に分かる。
徐々に歩を進めれば、見覚えのある肉親の姿が目に入った。

「よお。来てたのか、椿」
「キミもか」

墓石のそばには、椿が持ってきたであろう花や線香が置いてあった。

「花、」
掃除を手伝いながら椿が持ってきた花と自分が持ってきた花を見比べた。
こんなに飾る場所があるだろうか。
「どうすんだ?」
「半分ずつにするしかないだろう」
「だよな」
生花用の鋏らしいそれを椿に借り、花の長さを調整する。
「お前生け花のセンスとかある…わけねーよなー」
「ボクに任せろ」
「いやいや椿には無理だろー」
「やはりユリはここにするか…」
「話聞けよ」
いつの間にかオレが持ってきた花をぶんどって自分のと組み合わせを考え出していた。ていうか、

「なあ」
「なんだ」
「なんか地味じゃね?もっとこう、カーネーションみたいな。ピンクとかオレンジとか派手なやつ買って来なかったわけ?」
オレの持ってきた花も椿の持ってきた花も白ばかりだ。

「こういう場に相応しい花というのがよく分からなくてな…だいたい、キミだって同じじゃないか!」
「オレのは形に華やかさがあんだよ!」
「今は色の話をしてるんじゃないのか!」
「お前はいちいち細けえな」
椿が花から手を放した隙にさりげなく自分で花を整えた。
花立てに水を入れ、見映えがいいように花を飾る。

「こんな感じか?」
「まあまあだ」
「もっと褒めてくれてもいいんだぜ?」
「貴様ごときに称賛の言葉を与える価値はない」
「なんなんだお前!アレか、悔しいんだろ?ん?」
「ええい!うるさい!終わったのなら、ロウソクに火を灯せ!」

椿の持ってきたロウソクにマッチで火を灯し、ロウソクから二人分の線香に火をつける。

それから線香を立て、合掌をした。

こうしてまた、無事に年を重ねたことと近況を報告。
それと、波瑠母ちゃんにおめでとうの言葉も。

「なあ」

合掌を終え、隣の椿に話し掛ける。

「なんだ」
「波瑠母ちゃんって、何が好きだったんだろうな」
椿はオレの話に耳を傾けながら手際よく持ってきた線香やロウソク、鋏などを片付け始めた。

「それこそアカネさんに聞いたらどうだ」
「恥ずかしいだろ」
「好きなものが分かってたとして、どうするつもりなんだ」

「…プレゼントだよ」
「そうか」
「ああ」
「…」
「…」

「あ、残った花…」
「ん?ああ…お前にやるよ、プレゼントだ」
「む…じゃあ」
ボクも藤崎にやろう、と椿が花を差し出されたため、お互いに持ってきた花を交換するかたちになった。まるでクリスマスのプレゼント交換だ。

「これどうすんだ?なんかそのまま家帰んの恥ずかしくね?」
「部屋にでも置いておけ」
「うーん…」



桶と柄杓を元の場所に返し、墓地から出た。


「お前んちあっちだっけ?」
「ああ」
「そんじゃあ、」
「藤崎」
「何だよ」
「おめでとう」
「…おめでとう」

椿と反対方向に歩き出し、ふと真っ暗な空を見上げれば、月は綺麗な満月だった。



2011.11.11



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