「なんだこれ」

見慣れた部室の風景は、その一つのものによって見慣れない風景へと変貌していた。
そこにあるのはQRコードなのだが所謂雑誌やパッケージなんかに載っているようなサイズではないということだ。
床に広がるそれはなんだか少し不気味にも見える。
これが紙に印刷されたものなら拾い上げたかもしれないがどうやら1センチ四方のブロックのようなものが並んでこのようなQRコードを作り出しているらしい。

どうするべきかと思っていたら人の気配がした。足音もなく部室に入ってくる人物には一人しか心当たりがない。
振り向けばやはり、スイッチだった。

『読み取らないのか?』

それ、と指されたのはQRコードだ。
この状況を不思議に思わないあたりきっとこれはスイッチが仕掛けたものなんだろうな、と思いながら携帯電話のバーコードリーダーを立ち上げる。
画面に納まる位置に移動して読み取ればそこにはURLではなく文字があった。
再度スイッチに目を向けようと振り返ってみたがそこにスイッチの姿は無かった。

ありがとう。
そこに書かれていたのはそれだけだった。

何に対して?と頭を捻ったところでメールが届いた。スイッチだ。


バレンタインのお返しだ。
QRコードはチョコで出来ているからヒメコと一緒に食べてくれ。


「チョコ?」
「今日ホワイトデーやろ」

いつの間に来たのか後ろからヒメコが声を掛けた。
ヒメコの手には携帯電話が握られているからきっと同じようなメールが届いているのだろう。
ヒメコはさっそくQRコードに携帯を向け出した。

「しっかし、よおこんな面倒なことやったなあ…」

確かに正確に一つずつ配置するのは時間が掛かるだろう。卒業間近で授業が無く時間があるとはいえ、これを一人で並べるのは相当苦労しただろう。

「3倍返しどころやないな、これ」

ヒメコがQRコードに手を伸ばし端の一欠片を掴んだ。

「食べてええん?」
「放置するわけにもいかねーだろ」
「超大作やで?そんな簡単に壊してええの?」
「じゃあ写真でも撮っとくか」

再度携帯を開きカメラモードにする。椅子の上に立ちなるべく正面になるようにしてシャッターボタンを押した。

「で、スイッチどこ行ったん?」
「さあな」

スイッチがこの場にいない理由はきっと、このQRコードの言葉に込められた意味が単にバレンタインにチョコを貰った事に対する感謝の気持ちだけではないからだろう。




2年と少しの感謝の気持ち

2013/3/14



[TOP]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -