「は?」

席についたところだった。
机の上に雑な動作で置かれたのは先日発売されたばかりの時代劇に関する本だった。こんなものを差し出すような人物は一人しか知らないが一応確認、と辿るように上を見上げれば加藤が無愛想に立っていた。

「なんだよ」
「それやる」
「は?」
「あとこれも」
どこから出したのか加藤は最初に置かれた本とは別にもう一冊出した。

「これもそれもとっくに読破したぞ」
「じゃあこれ見たか?」
「見たけど」
「これは?」
「見たな」
次々取り出されるDVDや本はどれも拝見済でそのどれもがハズレのない内容のものばかりだった。
「完全網羅か!なんかねえのかよ!まだ見てないヤツ!」
どこか躍起になっている加藤は到頭手持ちが無くなったのかストレートにまだ見たことのない作品を聞いてきた。
「…あーアレは見てないな」
「何だよ?」
「明日公開の」
「あーアレか。つかそんなもんオレだって見てねーよ」
「結構面白いらしいぞ」
兄上伝いに聞いた事だったが試写会を見た奴がいたらしい。

「…見に行くのか?」
「当たり前だろ」
「いつだ」
「いつって別に決めてねえけど」
「明日行くよな?」
「はあ?なんでテメーが決めてんだよ」
「オレが奢る」
「は?」
どういう風の吹き回しかと思った。あの加藤が。いや、椿さんあたりには常日頃率先して無理矢理奢っていそうだが他に対してそんな事をするのか。
「…熱でもあんのか?」
「ねえよ!」
「なんの魂胆がある」
「何もねえっつーの」
「マジで奢ってくれるんだな?」
「ああ」
加藤が何を考えて奢るなんてことを言い出したのかは分からないが何か悪巧みをしている訳じゃないなら大人しく奢られることにして明日の予定を訊いた。
「明日、何時にするんだ?」
「早めがいい」
「早め?なんか用事とかあんのかよ」
「ねえけど」
「そんなに早く見てえの?」
「まあ、それもある」
「じゃあ10時くらいの回、調べとけよ」
「10時?」
「それくらいの回なら終わったらちょうどメシだろ」
「そうだな」
「メシも奢れよ?」
「はあ?なん…分かった」
「え、マジ?」
「男に二言はない」
「今日お前おかしいぞ?やっぱ熱…」
「ねえよ!気安く触んな!」
パッとでこに手を置いたら一瞬にして払われた。テメーオレが心配してやってんのに払うことねえだろ!と返したら口論になるところだがそれは予鈴によって遮られた。



やがて知ることになる明日

2013/1/20



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