「あれ?ミチル?」
「あ、安形!いいところに来た!ちょっと手伝って!」
自転車をゆっくりと引いて歩いていれば、今から俺の家に向かおうとしていたであろう安形に出くわした。
「何してんだ?」
「見て分かるだろ?精米しに行くんだよ」
自転車の籠には無理矢理乗せた米が入っている。
「お前ん家そういうアレなのか」
「お米も美味しい方がいいだろ?」
「米に味の違いなんかそんなねえだろ」
「失礼だな…」
「あーでも給食とか外食で食べる白米はあんまり好きじゃねーかも」
「違い分かってんじゃん」
「いや炊き方の問題かもしれねーだろ」
「捻くれてるな…そこまで品種の差認めたくないのかよ」
「炊飯器が違ったら味も変わるって!だから炊飯器のCMとかやってんだろ?」
「それは味じゃなくて歯触りとかだと思うけど」
「いや歯触りの差は水の量だろ」
「…もうキリがつかなそうだからその辺にしとこうよ」
「だな…でもまあ米の種類がなんだろうがミチルが炊いた米ならオレ何合でも食えるぜ!」
「そりゃどうも」
いかにもなドヤ顔を張りつけた安形は見慣れていたが少し鬱陶しい。
「あれ?オレちょっとそれっぽいこと言ったのに冷たくねえか?」
「そう?寒いからかな」
「じゃあオレが暖めてやろうか」
「あ、着いた」
「無視…!」
自転車を止めて籠から米を下ろす。
「何kgあんだよそれ」
「30kgだけど」
「マジで?重くね?」
「だから手伝ってって言ったのに」
「わりぃな」
悪いと言いつつ持とうとしないのはそういう考えがないからなのかと少しムカつくがそれはいつものことだ。
ガラガラとドアを開け中に入り備え付けの鋏で持ってきた米の袋を開ける。
それを玄米投入口に入れ硬貨を投入し白度調整をしてスタートボタンを押した。
「おお、結構うるせーな」
「もう少ししたらそこに米が溜まるからそしたらそこのペダル踏んで」
米を入れてきた袋を排出口の下にセットした。
「待つの暇だなー」
「ちょ、何」
減っていく玄米を眺めていれば腰にがっしりと手が回っていて離れない。
「いや暇だなって」
「じゃあそこの公園で遊んできたら?」
「キスもダメなのかよ」
「ダメだよ」
「何ここ監視カメラとかあんの?」
安形がキョロキョロと室内を見回した隙に離れようと身動いだが離れなかった。
「ないだろ多分」
「じゃあいいだろ」
「そういう問題じゃないだろ」
「なんで」
「常識的に考えて精米しながらそんなことする奴いないよ!」
「いるじゃねーか、ここに」
「口が寂しいならもう少し待ってて」
「お?」
精米された米が次々流れてくる様子に目をやる。
「結構美味しいんだ」
「米かよ…」
「あ、ほらペダル踏んでみて」
「お、おお」
安形は榛葉に言われた通りにペダルを踏めば溜まり始めていた米がザーッと音を立てて袋に落ちていった。
そこに榛葉が横から手をやり米を数十粒手のひらに乗せてその半分程を自分の口に放り込んだ。
「ん、美味しい」
「マジで?」
「うん。ほら口開けて」
「んあー」
榛葉は米を乗せた手とは反対の手で米を掴み安形の口に入れた。
「どう?」
「思ってたより甘味がある感じだな。でも足んねー」
「あんまり食べると歯が疲れるよ?」
「ちげーよ」
「ちょ…」
安形は口の中にまだ米が残っているからか当てるように唇を重ねてきた。
「米が邪魔で舌が入れらんないのが残念だ」
「帰るまで我慢しろよ」
「帰ったらいいのかよ」
「帰ったらね」
「よし!精米機頑張れ!」
ライスシャワーはまだ遠い
「あ、これ終わったらそっちで米糠袋に詰めてね」
「何、もしかして糠漬け作んの?」
「そんなとこかな」
「もうお前アレだな、俺の嫁になれ」
「嫌だよ絶対ろくな生活出来ないじゃん」
「俺頭いいから金はなんとかなるぞ」
「金で何もかも上手くいくわけないだろ」
「俺結構本気だぞ」
「本気ならこんなとこでそんなこと言わないだろ」
「だな」
「ほらペダル踏んで」
「あいよー」
2012.12.01
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