「今日はバレンタインなのでチョコレートをお持ちしましたわ」

菓子類を持ち込むのを嫌がる椿ちゃんに反し、ミモリンはよく高級菓子を持ち込んでいる。
今日はチョコだ。

「どうぞミチルさん」
「ありがとう」

ミモリンはこれまた高級そうなチョコレートをオレと椿ちゃんと安形に配った。
椿ちゃんは少し照れながら受け取っていて、安形は早速開封していた。

「デージーちゃんはくれないの?」
「榛葉さんは沢山貰っているじゃないか」
「こういうのは数じゃないんだよ」
「…欲しいのなら探すといい」
「え?」
「あそこだ」
デージーちゃんが指差した先にはみんなから貰ったチョコの山。

「…えーっと、もしかして名前とか書いてなかったりする?」
「書いていない」
「通りで…」
差出人不明のチョコは沢山あった。
下駄箱や机の中などあらゆるところに置いていかれている。


「では、私はバイトがあるから帰らせてもらう。これは椿くんと会長に」
そう言ってデージーちゃんは椿ちゃんと安形にチョコを渡していた。まあ、ここからじゃよく見えないけどちゃんと手渡ししていた。
というかデージーちゃんはチョコを渡す為だけにここに来たのか。

「では、家の者に車を出させますわ」
デージーちゃんとミモリンは帰り支度を始めた。


オレは取り敢えずソファの上に山積みになったチョコの選別作業をすることにした。
全部持ち帰れそうにないため、まず全て開けて中身を確認する。
今日中に食べた方が良さそうなものや冷蔵庫に入れた方が良さそうなものを優先的に持ち帰る為だ。

「なあミチルーこれ食っていいかー?」
安形は、まだ未開封のオレのチョコに手を出そうとしている。

「ダメだよ!自分の食べなよ」
「もう食った」

安形もそこそこチョコを貰っていた筈だが、まさかもう全部食べたのだろうか。

「では、皆さん私達は帰りますので」
「そうか」
「また明日ねー」
二人に別れの挨拶をし、再び作業に戻る。

包装紙を丁寧に剥がしたり、リボンを解いたりを繰り返す。



そういえばあとの二人は何をしているのだろうか。

椿ちゃんの方を見れば、書類の片付けをしていた。
安形は…寝てる。

気を遣う必要は無さそうだ。

差出人の分かるチョコは、誰がどんなラッピングのどんなチョコをくれたかをメモをして写メを撮る。
これはホワイトデーの時に参考にする為だ。
少し時間が掛かるが、みんなそれ以上に気持ちを込めてくれているからお返しはちゃんとしたい。

(あとは、)
差出人不明のチョコ。

(デージーちゃん、どんなのくれたんだろ?モイモイとかムンムンの形のチョコなら一発で分かるんだけどなあ…)
勿論そんな簡単なものではない。
(ヒント貰えば良かったかな)
(可愛い物好きのデージーちゃんなら可愛い感じのラッピングかな?)
いや、手作りでは無いだろう。
デージーちゃんが椿ちゃんや安形に渡していたチョコは市販の物だった。
とすると、恐らくオレのも同じ市販の物の筈だ。
仮に同じ物じゃなくても、同じ店ならラッピングも一緒だ!
わざわざ他の店に行くような面倒なことをするわけがない。

「安形!」
会長用デスクに目を向ければ、寝ている安形が視界に入る。
(そういえば…全部食べちゃったんだっけ?)

「椿ちゃん」
ちょうど席を立とうとした椿ちゃんを呼び止める。

「なんでしょう?」
「さっきデージーちゃんから貰ったチョコ、見せてくれる?」

「はい」
…これか

「ありがとう」
「いえ。ではボクは見回りに行って来ますので」
「ああ、うん。行ってらっしゃい」

(あの包装紙は確か…)

あった。同じ包装紙だ。
(あれ?でもなんかサイズが違う)
他のチョコに目をやれば、同じ包みが更に2つ。
(ううーん…難しいな…)
計3つの候補を見比べる。

(こういう時こそスケット団だよなぁ)
しかしここで藤崎らを頼るわけにはいかない。
3つのうち、1つは明らかに大きさが違う。

(あと2つは…あれ?なんか書いてある?『日頃のお礼』?日頃…ってことは、普段仲の良い人ってことか?もしかしてデージーちゃん!?あれ?でも確か…)
自分の机に戻り、引き出しを開ける。

(やっぱり…デージーちゃんの字じゃない)
包装紙と引き出しの中にあった書類のデージーちゃんの字を見比べる。

(でもこの字、見たことある…いや、それより、これじゃないってことはもしかしてデージーちゃんのチョコはこっちのヤツ?)
余った1つを開けてみる。
(それっぽいような気がする…!)

しかし確証は持てない。もしかしたらもう1つの大きい方かもしれない。
取り敢えず大きい方も開けてみる。
(これは、デージーちゃんっぽくはないような…でもなんかこれ見たことある気が…)

思い出した。
これは、サーヤちゃんだ!
この前安形の家に行った時にリビングにあった雑誌に載ってたヤツだ。
バレンタイン特集のページに幾つかチェックが入ってて、その中にオレの名前が入っていたのを見た。

(てことはやっぱりデージーちゃんのは…こっちだ!)

一口サイズのチョコが幾つか箱に並んでいる、よくあるパターンの物だがデージーちゃんの選びそうなパッケージだ。

目的のチョコを見つけられた嬉しさに思わず1つ口に含んだ。

「ん、甘い」

明日、これを本人に見せたらどんな反応をするのかを想像しながらオレは残りのチョコの選別に戻った。



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2012.02.14



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