「どうしたんですか…それ」
部活が終わったら公園に来るようメールをして一時間。ベンチに座る俺の姿を見た影山は明らかに驚いていた。そりゃあそうだ。何せ卒業した先輩が他校の、青城バレー部のジャージを着ていたら誰だって気になってしまう。
「俺実は卒業してないんだよ」
「え?」
「留年?みたいな」
「留年…」
「もう一年同じ場所で過ごすのはなんか気まずいっていうかさ。だから俺、青城入ることにしたんだ」
ジャージの上着のポケットに手を入れたまま上下に動かしてそれを表す。
「そう、ですか…」
「うん」
「なんていうか、その…残念です」
「残念?」
「せっかく一年仲間としてやってきたのに敵になるの、残念です」
「そっか」
「はい…」
「ごめん」
「いや、そんな謝らないでください」
「あのな、影山」
すっかりシリアスモードな影山を見てもういいだろうと判断する。
「今日何の日か分かる?」
「今日?……あ」
少しの間があって漸く気付いたかのように表情を変えた影山を見てネタバラシをする。
「嘘だよ。全部」
「うそ…」
「うん。だからごめんな」
「いえ…良かったです。嘘で」
「怒んないんだな?」
「そうですね…なんかあんまり怒りは湧いてこないっていうか、ホッとした気持ちの方が大きいっていうか」
「そっか」
「そういえばそれ、どうしたんですか?」
影山が指すそれとは青城バレー部のジャージの事だ。
「及川に借りたんだ」
「……そうですか」
心底嫌そうな顔をする影山には悪いが実はこの一部始終は及川も見ていたりするのだ。
「やっほー!いやーまさかとは思ったけどそんな綺麗に引っ掛かるとはね!」
ガサガサと草木が揺れる音がしたと思えばやはり及川が出てきた。
「それ…」
「どう?似合う?」
くるっと一回転してポーズを決める及川が纏っているのは言わずもがな烏野バレー部のジャージだ。
「全然似合ってません」
「まあ、だろうね」
きっと二人のこの姿は影山にしてみれば異物感でしか無いんだろう。ずっと仲間だった先輩がいきなりライバルになって、ライバルだった先輩が仲間になったんだから。似合うなんて思うはずがない。
「色は似合うと思いますけど」
「色?」
「菅原さんは爽やかな感じで、及川さんは性格が滲み出てる感じがします」
「何それ!どういう意味!?」
納得がいかないらしい及川には悪いが影山に同意してしまう。実際、こんなことをしようと持ちかけたのは及川である。そういう部分が黒なのだ。結局最後には黒幕が痛い目を見るのだ。



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