※同棲




「ただいま」
「ああ、おかえり…」
買い物袋をダイニングに入ってすぐの場所に適当に置きながらそう言えば随分と暗いトーンの返事が聞こえた。
「どうした?」
「いや…なんでもないんだ」
明らかにおかしい。鈍感だなんだと言われる俺でもさすがにこれは分かる。
「ポーカーフェイスが得意なヤツがそんなあからさまに動揺してんのになんでもないのかよ」
悩み事なら話してみろよ、と心ん中で付け足せばタツヤはそれを汲み取ったかのように言葉を紡ぐ。
「……あのな、タイガ…」
続きを待っていれば何やら見慣れないバッグが目の前に置かれた。
「これ、」
「な…!?」
そうして丁寧に開けられたバッグの中には札束がぎっしりと詰まっていて思わず目を見開いた。
「玄関の前に置かれてたんだ」
「マジかよ…いくらあんだこれ」
「一億」
「いち…本物なのか?」
試しに一枚札束から引き抜いて日に当てて透かしてみる。
最近は偽造の技術も上がってきているから意味のないことかもしれないと思っていたがしかし…。

「…タツヤ」
「ん?」
「これ偽物だぞ」
「うん」
「え、それだけ?」
そりゃあまあこんな大金が玄関に放置されるわけはないのだけれどしかしあんなに動揺していたのに随分と簡単に受け入れるな。
「だって嘘だからね」
「は?ウソ?」
「エイプリルフールだからね。タイガはこんなあり得ない嘘でも簡単に引っ掛かるから嘘のつきがいがあるよ」
「………」
なんだか勝負に負けたような敗北感があって悔しかった。かといって今同じように嘘をついてもきっとすぐにバレるのだろう。結局これは先手を打たない限り勝てないゲームなのだ。
「…来年は俺が勝つ」
「そう。楽しみにしてるよ」
まるでバスケをする前のような挑発的なタツヤの目には勝者の余裕が浮かんでいるようで益々来年が楽しみになった。


「そういえばタイガ」
「あ?」
一段落着いて漸くメシが作れるとキッチンに立てば、背後から引き止めるように声が掛かる。

「俺達やっぱり別れないか?」
「え…?」

思わず振り返った。今さっき来年の約束をしたというのに。そんな上げて落とす速度が早過ぎじゃないか。

「なんてね。嘘だよ」
「はあ!?」
「タイガは来年の事ばかり考えているけど今年はまだ終わってないよ」
そうだった。タツヤはきっと俺が考える事はお見通しで、だからこうやって嘘を重ねても俺は信じてしまうんだ。
「……タツヤの分減らすからな」
「はは。それは残念だ」
取り出したばかりの肉片を手にタツヤを睨んでみたが全く効果はなく、精一杯の悪あがきみたいになって余計悔しかった。



一方的なライアーゲーム
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