めいんでぃっしゅ | ナノ

::黒尾と月島

部活が終わって帰宅して風呂入って飯食って、漸く空いた時間に思い出したのは昨晩から考えていた事だ。正確に言えばもっと前からなのだが、今日が月島の誕生日かもしれないという事。
烏野の主将あたりに聞けば分かるのかもしれないが今までタイミングを逃してきて今日、今聞くのは少し気が引けるからやめた。
結局辿り着いたのは本人に直接聞いてみることだ。
メールはたまにするくらいなのだが電話はしたことがない。いいタイミングかもしれない、と今回は電話を掛けることにした。まあ、サプライズといったところだ。

いざコールしてみれば、30秒程で漸くコール音が途絶えた。

「……もしもし」
月島は普段からあまり声を張っている印象は無いが、電話越しに聞くとそれが顕著になるような感じがした。それでいて意外と言葉がはっきりしていてすんなり耳に入る。
「俺だけど」
「詐欺なら間に合ってますけど」
「ちげえよ」
冗談なのか、本気で嫌がっているのか表情が見えないぶん分かりづらい。下手にからかうと電話を切られかねない。
「何か用ですか」
「今何してんだ?」
電話していても大丈夫なのかということと、プライベートへの興味だ。
「仙台歩いてます」
「仙台?こんな時間に何しに?」
声の後ろは確かに少し雑音がするから嘘ではないだろうけれど、てっきり家か帰り道だと思っていたから驚いた。
「……ちょっと人に会いに」
言い淀む様子からあまり触れられたくないことなのだろうと悟ったが、一度気になってしまえば聞かずにいられない。
「人……もしかして彼女?」
「違います」
「まさか、援交とかじゃねえよな?」
バイトかとも思ったがわざわざ活気のある市街地へ行く理由がそれくらいしか思い浮かばなかった。
「……僕そんなふざけた人間に見えますか」
「いや?」
実際、月島の素顔は殆ど知らないのだからもしかしてということもあるのかもしれないが。
『蛍!』
電話の向こう、結構近い距離から唐突に聞こえた声は男のものだ。
「……誰?」
「別に誰でもいいでしょう」
待ち合わせの相手なのだろうか、それとも偶然通り掛かった知り合いか。
「気になるだろ」
「……兄です」
「兄貴?へえ……俺ツッキーは一人っ子だと思ってた」
兄弟がいたとしてもあまり仲は良くなさそうだと思っていたから意外だ。
「で、何か用ですか」
「あー…いや、ツッキー今日誕生日かなって」
「……誰から聞いたんですか」
ビンゴらしい。
「ツッキーから」
「……教えた覚えないですけど」
心当たりがないのも無理はない。実際月島の口から聞いたわけではないのだから。
「アドレスの数字、誕生日だろ?」
「……なんでそんなの覚えてるんですか」
「まあ、なんとなくな。誕生日おめでとう」
「はあ……どうも」
「プレゼントは来週な」
10月の頭に代表決定戦前最後の梟谷グループの合宿がある。
「別にそんなのいいです」
「もう買っちまったんだから受け取れよ」
「ネタとかならいりませんから」
烏野で既にネタ系プレゼントの洗礼にあったのだろうか。釘を刺しにきた。
「ガチなら受け取ってくれんの?」
「……物によりますけど」
「ふーん……じゃあまあ、楽しみにしとけよ」
「……分かりました」
不安そうな返答だ。まあそりゃあ、サプライズ予告みたいなものだから仕方ない。
「おう。じゃあ、またな」
「はい」
「おやすみ」
数秒待って気配を窺う。此方から切るべきなのだが言いっぱなしではなく返しがほしい。
「……おやすみなさい」
ブチッ、ツーツー…と続いて漸く耳元から端末を下ろした。
なんかいい夢見れそうだ、なんて女子みたいな事を思いながら目を閉じてみれば、どっと疲れが押し寄せてきた。瞼が重い。



少し早いが寝てしまおうか
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