::宗介と凛 宗介が風呂から上がり部屋に戻ったのはいつもとそう変わらない時間帯だった。いつも通り湿った髪をタオルでガサガサと頭を掻くように、髪をかき混ぜるように拭いていた時だ。何か気配を感じたのだ。 宗介はピタリと動きを止め辺りを警戒した。まるで飛び込みの瞬間を図るように身体全体に意識を集中して。 すると何やら音が聞こえてきた。建物が軋む音でも風が窓を叩く音でもない。衣擦れのような音。 聞こえてきた方、ベッドの上の段に目をやるとすぐにその原因が分かった。 「凛」 普段なら宗介より後に部屋に戻ってくる凛がそこにはいた。二段ベッドの上の段、宗介が普段寝ているスペースに凛が寝ていた。 「…なんだよ」 凛は意識を落とす寸前だったのか声がはっきりしていない。 「一緒に寝るつもりか?」 「ちげーよ。いいからお前は下で寝ろ」 一体どういう風の吹き回しかと宗介は首を傾げた。あれだけ下がいいと言っていたのに、と。 (…そういえば前にもあったか) ベッドを眺めていたら一つだけ思い当たる事があった。肩の事を凛に話した日の後だ。 ベッドへ上がる梯子を登っている時に、下と代わるかと心配された。 その時は、それほど負荷は掛からないからと断ったがやはり気にしていたのだろうか。 (心配し過ぎだ、馬鹿) 明日の準備など一通り済ませて電気を消して布団に入ると疲れがどっと押し寄せてきて宗介は反動で息を吐く。 反射的に吸った空気は凛の匂いがしてなんだか安心して眠りにつけそうだった。 宗介が意識を落とす寸前、上からは寝返りの音がした。 「やっぱ上落ち着かねーわ」 翌朝。開口一番に凛は言った。やっぱりかと宗介は眠りにつく直前に聞いた音を思い出す。 「俺はよく眠れたけどな」 「…そうか」 「ああ」 「匂いとか、気になんなかったか…?」 「匂い?いや、別に」 「そうか。ならいいんだけどよ…俺は宗介の匂い、なんか落ち着かなくてなかなか寝付けなかったから」 言いづらそうにする凛の反応に汗臭くて、という意味ではなく、宗介が凛の匂いを感じたのと同じように凛は宗介の匂いを感じていたのだ。ただ、凛の場合はドキドキして眠れなかったということだったのだと理解して宗介は嬉しくなった。 「なら今日も下で寝るかな」 宗介が挑発するように口角をあげると凛の却下の声が小さく響いた。 今夜も君を寝かせない |