::真琴と遙 ※ハイスピネタ 夕陽が沈み薄暗くなった通学路を泳ぎ疲れて少し軸がブレたような足取りで歩く。家の方へ行く道を曲がらず素通りし真っ直ぐ進むのはスーパーに行くためだ。 用があるのは遙だけだが真琴はたまにそれについていく。 基本的に遙は日曜に一週間分の食材を買い込んでいるが今日のような例外もある。例えば鯖が特売であったり、切らした食材を買い足すためであったりする。今日は後者だ。 営業時間ギリギリのスーパーは少し居心地が悪い。閉店準備をする店員は早く帰宅したいだろうし、客は目的のものをさっさと選んでレジに並んでいる。 そんな雰囲気を遙は気にならないのだろうか。急ぐ様子もなくほうれん草を選んでいた。 「…真琴」 「なに?」 「絹ごし豆腐持ってきてくれ」 「豆腐?分かった」 さすがに急ぐ気になったのか遙は真琴に指示を出した。 真琴はそれに応えるべく、生鮮食品の売り場からそう遠くない豆腐や漬物の集まる一角へと向かった。 「えっと、絹だよね…」 豆腐に硬さの種類があることなど一昔前の真琴には知り得なかった事だ。遙との料理や買い物の中で真琴はそういった事を学んでいる。 期限が遠い物を選ぶということも遙の買い物に付き合い出して知った。 何種類もある絹ごし豆腐だがいつも遙の家で見るのは一つだ。それを一パック、奥の方から選び出す。 無事任務を遂行し、遙の元へと戻ろうとしたが先程の場所には見当たらなかった。 そのまま肉や魚の並ぶ奥の広い通りに沿って歩き他の通路にも目を向けながら進んでいく。 入ってきた方とは真逆の端まで辿り着くと乳製品のコーナーがある。角を曲がってみれば、その先の惣菜コーナーに遙はいた。 作るのが面倒になったのだろうか、と考えながら遙の傍まで行けば手にとっていたそれが何なのか分かった。コロッケだ。 かつて遙の母親がここで作っていたもの。材料の分量などマニュアル化されているためずっと味は変わらない。遙にとって特別な、謂わばお袋の味のようなもの。 閉店間際で売れ残っているのは珍しい。当然値段は下がっている。 二個入りのそれを遙がかごに入れたのを見て真琴は携帯電話を取り出してメールを打ち出した。 その間遙はレジへと進む。真琴は人とぶつからないように、先にレジの向こうの商品を袋に詰めるためのスペースへと回って改めてメールを作成し送信した。 少ない買い物を終えた遙がかごを抱えて此方へ来たタイミングで真琴は口を開く。 「ハル」 今なんとなくそういう気分になったかのようなニュアンスを意識して。 「今日、泊まってもいい?」 君が寂しくないように |