ユーレイにも理由がある1
気がついたらここにいた。
何度考えてもこれが一番しっくり来る理由で、それ以外に思いつかない。気がついたらこの部屋にいたけれど、ここは私の知ってる部屋だった。置かれて居る家具は殆ど黒と黄色で統一されたシックな雰囲気で、私が知ってる"モノ"で溢れかえった雑然とした部屋とは違うと思ったけど、やっぱり同じ部屋だと思う。2LDKの間取りも、壁紙の日の焼け方だとか、この高い場所にある部屋のベランダからみる景色だとか、私が知ってる部屋と同じ…だからここは"私の知ってる部屋"だ。少し違うと感じたのは、窓からピンク色の桜の花が見えたことくらい。私が覚えてる限り、あの頃は桜が咲いてなかった…あの頃?
もう一度ぐるりと部屋を見渡す。
リビングにあるのは黄色と黒のデザイン性がたっぷりのカーペットに黒い大きな革のソファ、大きめの黒いダイニングテーブルにチェアのみ、窓には斑模様のカーテンがかかっているだけで、キッチンにも何も置かれてない。余計なものが無いと言うか、とてもシンプル、いや、生活感がまるで無い。
部屋の中をソファに座って眺めていると、ガチャリと玄関の戸が開いた音がする。その足音は何の躊躇いも無く廊下を歩きリビングに入って来た。
「…おい、何でここにいる」
どきりと心臓が跳ねた。
突然部屋に入ってきた男に話しかけられた事に驚いたのか、その男が思いの外イケメンであって驚いたのかはわからなかった。
"何でここにいる"
尋ねられたけど、言葉が見つからない。だって、気がついたらここにいたから…。正直、私が知りたい。あの、えーっと、その、しどろもどろに状況を説明しようとしても、上手い理由が見つからない。て、理由を探しているなんて、まるで不法侵入した言い訳を探してるみたいじゃないか。状況からしてイケメンだけど隈の男は多分この部屋の家主で、見ず知らずの私が勝手に部屋に入ったと、そう睨んでいるんだろう。
「あの…信じてもらえないかもしれないですが…気づいたらここにいまして…すみません、すぐに出て行きます」
イケメンだけど隈の男に一応謝罪の意味を込めてお辞儀をして玄関へと向かう。イケメンだけど隈の男の横を通る時、物凄く見られている視線を感じたけど気にしない気にしない…。そもそも"私の知ってる部屋"だけど、出ていかなきゃ行けないのは心苦しい。しかし、私こそわからない、何でここにいるのか?とりあえず家に帰って美味しいもの食べて落ち着こう。あ、れ…?家に…?私の家…?
「どうして…?」
玄関の扉に手を掛けたところで、ふっと目の前の景色が変わった。目の前にはまたイケメンだけど隈の男がいて、私はソファに座って彼と向かい合ってた。さっきと違うのは、イケメンだけど隈の男がニヤリと笑っていたことくらいで相変わらず何も無いリビングに私は戻っていた。
「…」
「私今…帰ろうとして…」
「まだ気づかないのか?」
「え?」
「お前はユーレイだ。しかも性質の悪ィ地縛霊ってヤツだ」
いま、なんと…?
イケメンだからって何を言っても許される訳じゃないし、そんなの、そんなの….私も知らなかった衝撃の真実で…うそ、でしょ?
(20130409)