ユーレイと同居中











六月の梅雨時期は湿気が多くて気持ちが滅入る。ただでさえたいした講義もなくつまらない一日だったのに、しとしと、こんな風に雨が振れば余計に鬱陶しい。傘を片手にゆったりと重い足を自宅へと運ぶ。

一人帰るこの時間ももう慣れたモンだ。これまではおれの一人暮らしのマンションには、誰か必ず一緒に帰ってきてた。それはクルーの誰かだったり、女だったり(知らねェうちに上がり込んでる女もいたな)なんだかんだあの部屋は人の出入りが激しかった。シャチやペンギンなんて、殆ど毎日おれの部屋に来ていた。おれは一人の方が好きで気が楽な筈なのにおかしな話だ。それなのに、このところあの部屋には誰も寄り付かない。そうだな、丁度桜が散り始めた頃からだったろうか。その頃からおれの部屋には誰も来てない。まあ、おれがあの部屋に誰も受け入れなくなったから仕方ないか。幼馴染のペンギンでさえも今は来させてない。その理由は単純だ。


「ただいま」


傘の水気を軽く払い、玄関を開けて声をかける。肩に乗った雨の雫を払っていると、リビングから声が聞こえてくる。一人暮らしのマンションの筈が、今は"おかえりなさい"と返事が帰ってくる。そう、理由は単純だ、今は女と住んでいる。

そういえば、今日シャチに妙なことを聞かれたのを思い出す。(そういやあ、こん時シャチに口元を拭われたがなんだったんだ)"何かに憑かれてるみたいっすよ"と。あながち間違ってねェ。いや、シャチにしたら珍しく上出来だ。"おかえりなさい"の声の主が玄関に現れた、足音はない。思わずくくっと笑みが漏れる。理由を言わず笑い続けるおれを、きょとんとした顔で見つめて来る女。初めて出会った時は、同じ部屋に集まった縁でなんとかしてやるかと、その程度だったが…コイツがいると毎日が飽きない。ガキの頃からこういった類の奴等は腐る程見てきたが、コイツみたいに普通に会話ができたり、触れるヤツは初めてだ。


本当に、生きてるみたいに。




コイツの名前はアカネ、所謂ユーレイだ。









(あの日幽かに存在する彼女をおれは受けいれた)




(20130409)
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