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(違いますよね?)







空気がしんっとして静まり返った夜のことだった。星がキラキラ輝いて夜独特の空気感が二人を包み込んで二人手を取り合いーーーまさに恋人同士の私たちのためにあるような、そんな夜だった。



「なのにジャーファルさんわたしに何にもしなかったのよ!?」


先日の夢打ち砕かれた夜の話をしているのは今、謝肉祭の夜だった。まあまあ落ち着けとシャルに言われるが酒の勢いを止められない。ジャーファルさんと恋仲になって三ヶ月、何もなさ過ぎて辛い。所詮わたしから始めた恋だとは理解してる。八人将の彼に憧れて死に物狂いで勉強して文官試験を突破して掴んだ直属部下の地位なのに、わたしからその地位を放棄するかのような思い詰めた告白をジャーファルさんはまさか、受けてくれた。その時のはにかんだ、私で良ければ、と言った笑顔が素敵だったのに。その時二人して恥ずかしがりながらキスをして以来、何も、ない。最近政務が忙しいのは解る、けどあの夜は絶好のチャンスだったはず!政務室といえど、恋人になってから初めて二人きりになって手が触れ合った瞬間だったのに。キスすらなくて、なにもなくて、わたしはとてもショックだった。女として欠けてるのかなあ、いつも愚痴を聞いてくれるのはシャルだし、いつも飲みに行くのもシャル、馬鹿騒ぎするのだってシャル、なんでかなあ、なんでわたしはジャーファルさんを好きになったんだろう。


「…ナマエ声に出てんぞ」


「え、どこから?」


「それがわからない程酒飲む女に魅力感じないんじゃね、ジャーファルさんも」



も!ってそれではシャルあんたもじゃないかと思ったが、シャルのストライクゾーンにわたしが居ないのは解ってる。さっき述べたように、悪友みたいなもんだし、前にわたしの乳に興味ゼロと言っていた。ヤムさん程ではないし、自慢でもないが、でるとこは人並み以上にでてると思う。わたしだってこれは強味で最大の武器だったのに、ジャーファルさんは目もくれなかった。わたしは結局魅力の無い女なのだろうか。


「なあ…前から疑問なんだけど、もしかしてジャーファルさん童貞なんじゃねぇ?だからナマエに魅力がないとかじゃなく、自分に自信がないとか?」


「いやいやいやいや!だってジャーファルさん26歳だよ、それはないでしょう!この年まで女性に興味なかったって言わせないよ!」


何を言い出すこの悪友が。わたしが考えたくても考えないようにしていた、もしかしたら真実かもしれない話を簡単に言い出した。お酒の力とは怖い。でも、シャルの説も否定できない。シンドリア一筋、シン様命、仕事大好き、とにかく真面目な26歳ジャーファルさん、あり得そうで否定できない。


「私が童貞かどうか、ですか?」


ぞくぅっ!!!
とシャルと二人背中に悪寒を感じた。そう、話題の中心ジャーファルさんが背後にいた。彼の気配の消し方にはほとほと参る。


「私ではなくてシャルと二人で飲んでるなんて妬けますよ。どうして私を避けるんですか?」


「だってジャーファルさん、わたしになんにもしてくれないじゃないですか!恋人なのに!」


「…我慢をしていました。あなたは大切な部下であり、何より大事な恋人です。情に任せてあなたを失いたくなかった、だから我慢していたんです」


なんだ、ちゃんと愛されていたんだ。よかった、ね、シャル、聞いて…ない、というか逃げてる。大方童貞話をしていたことに怒りの鉄槌が飛んでくると思ったのかな。


「今回シャルは見逃しましょう。それより大事な問題が残ってます」


ふっと笑みを漏らしたジャーファルさんの顔はあの夜とは違って、頬がほんのり赤くて、艶めいた目をしていた。


「ジャーファルさん酔ってません?」

「多少ですが、飲みました。なんだか呑まれた気もします。さあ、ナマエ私の部屋に行きますよ」


ぐいっとわたしの腕を引っ張るジャーファルさん、お酒が入るとこんなに強引になるのか。その艶めいた目線にわたしも呑まれてしまいそう。


「童貞かどうかなんて、ナマエが体で体験したらわかると思いませんか?さあ行きましょう」



どくんどくんと心臓が脈打つ。さっきまでの威勢の良さはどこへやら、まるで処女に戻ったみたいにジャーファルさんとの"いまから"を想像して真っ赤になった。




(20130107)





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