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(始まりの合図)


※現パロ



寒い。何故私がジャーファル先生を探しに行かなきやいけないんだ。他にも手が空いてる先生はいるだろ、大体いつもジャーファル先生事になるといちいち私に押し付けてくる。別にジャーファル先生が嫌われてる訳じゃ無い、私達ができてると皆勘違いしているのだ。まあ、仕方ない、ジャーファル先生はジャーファル先輩であって、先輩に憧れて、追いつきたくて、捕まえたくて同じ道を選び、この高校の採用試験を受けたのだ。このことは就任初日に皆にバレてる。この日のことは忘れない、大学を卒業して以来出会えた私の憧れのジャーファル先輩。「待ってましたよ、ナマエ」だなんて、職員室で初顔合わせで言うんだもの。どういう意味だったのか、まだ聞けないでいる。私はこんなに一途で臆病な女だったかな、ジャーファル先輩のことになると、なんでこうも上手くいかないのだろう。はぁ…ため息をつけば寒空の下、吐息が白い煙となった。悶々と校舎を歩いているうちに目的の場所に辿り着いた。あの人はまたこんな寒い中、こんな寒そうな所にいた。ひゅっと吹く風にプールサイドの水面が揺れ、先輩の綺麗な銀髪が揺れるのが見えた。白い煙が漂う。さっき私が様々な感情を込めて吐き出した一瞬の煙とは違う、風に漂う白い煙。やっぱりここにいた。

「ジャーファル先輩!」


「…ナマエ!」

いつもは声をかけない、煙草を吸い終えるのを廊下で待っている。校内禁煙。こそこそと忍んで一服をする先生方は他にもいる。なんとなく、発見された側も、する側も、皆後ろめたさがあるのだろうか、お互い見ても見ぬふり、それがこの高校の教師間の暗黙のルールだった。


「先輩、校内禁煙ですよ」


「先輩、だなんて久しく呼ばれてないから驚きましたよ」


ほらまた、肝心な所をはぐらかすのが上手いのだ。にこっと笑って隣に並んだ私を見る。ほらまた、その笑顔。私だって、伊達に数年越しにジャーファル先輩を追いかけてきた訳じゃ無い。何度もチャンスはあったし、アプローチもかけたけど、サラリとこの営業スマイルでかわされる。それでも、ジャーファル先輩とのこの関係が私の「好きです」、たった一言で崩れてしまうのが恐くて直球勝負に出れない。やっぱり私は臆病物なのだ。


「ナマエも休憩しにきたのですか?」


どうぞ、と営業スマイルの主はポケットから一本煙草を取り出した。片手にはまだ吸いかけの煙草を持っている。違いますよ、先輩を探しに来たんです、明日の入試の準備そろそろ終わるから呼んで来いって先生方に言われました、と月の幻影の浮かぶ水面を見つめ要件を伝える。綺麗、澄んだ空気に良く映えている、先輩の髪と同じ銀の輝き。とても綺麗な夜。先輩の顔が見れない。さっきまで余計な事を考えていたせいだろうか。手早く済まさなければ、このまま2人きりのプールサイドで、雰囲気にのまれて言ってしまいそう。あなたが好きです、だなんて。


「煙草臭かったですか?」


「え?そんな、気にしてませんよ」


「だって、ナマエ、私の顔を見てませんよ」


ふと、先輩の顔を見上げる、あ、またこの笑顔。思った時には視界いっぱいにジャーファル先輩の顔が広がって、たった一言、たった一言その言葉を最後に、私の唇に暖かい物が触れたのだ。それは先輩が言った通り、煙草が匂い、でもそれ以上に男くさかった。今のは所謂、キス。嘘でしょう、私がたった一言「好きです。」、この言葉が言えないのに、この人はいとも簡単に飛び越えてきた。


「…煙草くさいです」


「すみません。丁度あなたの事を考えていたので、つい我慢ならなくて」


一瞬の出来事に、呆然として上手く対応ができない、なんだなんだ、煙草くさいです、ってそんな感想言ってる場合じゃないだろ自分。どういう意味ですか、私が口を開こうとした時には、ジャーファル先輩は火を消し終え携帯灰皿に煙草を納めていた。


「さあ、皆待っています。行きましょう」


「…え、あ、はい!」


先を歩くジャーファル先輩に向かって駆け出す。いいのだろうか、勘違いじゃないだろうか、これは始まりの合図なのだろうか。一歩踏み出す勇気、私は考えるのをやめた。

「ジャーファル先輩待って!」

手を引いて先輩の足を止める。振り返った先輩に不意打ちでキスをする。ニコリ、いやニヤリと笑ったジャーファル先輩。校内で不謹慎ですよなんて諌められるが、あなたの方がもっと不謹慎だろう。ちゅ、とまた唇を重ねてきた。煙草くさい、あ、間違えた。




「好きです、ジャーファル先輩」



(20121224)







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