赤くなる少年





目の前に不審者発見。
やっぱりさっきまでのわたしの描いていた甘酸っぱい展開は、ただの夢物語だった。何してんだろ。おーい、タオルと着替え持って来たよ、と脱衣所から声をかけても彼はボトルの観察に熱心なまま。もしかして今度こそ知らないのか、近寄って一通り説明すると驚きで言葉にならない様子だった。特にボトルから液体が出てくることに大層驚いていた。一体どうゆう仕組みなのか、どうにか理解しようと真剣な面差しで両手でボトルを抱えあげていた。言っておくけど、わたしはシャンプーのボトルに対してこんなに一途に疑問を投げかける人を見たことがない。だって、押せば出てくる。当たり前のことと思ってたから。わたしには当たり前で、ジャーファルにとっては摩訶不思議な問題。これではまるでジャーファルが発展途上国から来た人みたいじゃないか。じゃあ、シャワーなんてもっと驚くかもしれない!嬉々として蛇口をひねればシャワーから水がでることを伝えたが半信半疑。


「ジャーファルが持ってるシャワーね、そこから水が出てくるんだよ。」


「信じられません…こんなものから水が…一体どうやって!?」


ごめん、ジャーファル、詳しい仕組みがわたしにはわからないけど、あなたが言う魔法ではないことは完全に否定できるよ。実際に水を出してみればいいじゃないと投げかけてみたけど、これまた恐々と蛇口に手を伸ばす。中々ひねらないし。

「こうやってぐいっとひねるんだよ。」

ジャーファルの手に被さるように手を重ねて蛇口をひねった。ジャーファルは一瞬びくっとして、わたしの顔を見上げた。ちょっと、うわ、近いな、ジャアっと流れ出した水に思考が遮られた。嘘でしょう、彼の小さな呟きをわたしは拾い出した。


「水に触ってて、きっともっと驚くよ!」

「…え、お湯になってる?!」

わたわたとしてシャワーを振り回しそうになるジャーファル。うわ、かかるからやめて。待って、ジャーファル落ち着いて!




わっ



と思った時にはジャーファルが放ったシャワーが暴れ出していた。二人してお湯を浴びてしまった。それがまた可笑しくて、今度は二人で笑い合った。


「すみませんナマエまで濡れちゃいましたね。」


「わたしはだいじょうぶだよ、ジャーファルの方がいっぱいかかっちゃった。」


シャワーは主にジャーファルを標的にしていたので、彼はわたしよりお湯を浴びていた。綺麗な銀髪が、お湯がかかって少しだけ萎れている。水分を帯びた柔らかい髪の毛、それでも艶めいてつい触りたくなってしまう。そう、つい、わたしはまたジャーファルの頭に手を伸ばした。


「どうして頭を撫でるんですか?」


「綺麗な銀色だなあと思って…」


きょとんとしていた。うわあ、しまった、言ってしまった。わたしはすぐに思ったことを口にしてしまう。悪い癖なのだ。あれ?ジャーファルの顔がちょっと赤い?それをみてわたしも赤くなる。やっちゃったかも!しかもこの至近距離、顔が近い。ごごごごめんね、ものすごくどもりながら謝って、早く入ってあったまってね!と言い残してお風呂場を出た。慌てて出たせいか、すこし心臓がばくばくしてる。脱衣所の扉に体を預けてすーはーと深呼吸、落ち着け自分と言い聞かせる。









少女漫画みたいじゃないけど、いくら大人ぶっても、どれだけ背伸びしたって、わたしはまだ15の乙女なのだ。



(20121231)





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