襖を開ければそこにいたのは孫と見知らぬ銀髪の少年。そりゃあこんな状況、御年八十に近いご老体でも未経験のことだろう、が、ウチのおじいちゃんは一味違うのだ。大好きなお酒を煽って少しだけ赤ら顔でおじいちゃんは微笑んだ。
「いらっしゃい。ナマエの友達かな?ゆっくりしていきなさい。」
「おじいちゃんありがとうー!」
わたしがお礼をいう頃には、手を振りながらおじいちゃんは襖を閉めていた。その向こうから二人とも早く風呂入るんだぞ!と言い残して去って行った。
「ね、大丈夫でしょ?ウチのおじいちゃんちょっと変わってるし。」
「はい…それより、あの、」
「本当に血が繋がったおじいちゃんか、知りたいんでしよ?」
おじいちゃんと初対面の人は必ず疑問に思うことだ。わたしの本当に血が繋がってるの?無理もないと思う。何故ならおじいちゃんの髪はキレイな金髪で、わたしとは似ても似つかぬ色をしているのだから。
「おじいちゃんね、もうずーっと金に染めてるの。本人は自称生まれてずっとこの髪色って言うけどね、ポリシーなんだって。少なくともわたしが物心ついた時から金髪で、金髪以外のおじいちゃん見たことないんだ。」
ウチのお母さんも金髪しか見たことないって言うし、しかも日中はサングラスまでかけて、ね?孫のわたしでも思うけど変わり者のおじいちゃん、でもわたしが泣いてる時は抱きしめてくれて、いつも優しくて、かっこよくて、わたしは大好きなの。自分で言ってて少し恥ずかしくなる、だって、わたしの味方はおじいちゃんしかいないもん。ジャーファルに素敵ですね、なんて言われて余計顔が熱くなる。今はそう赤くなってる場合じゃない。おじいちゃんにも言われたし早くお風呂に行こう。
「おじいちゃんには改めて挨拶するとして、お風呂行こう!」
「はい、ではお言葉に甘えて。」
わたしはジャーファルの手をとって、二人でお風呂場に向った。なんとなくジャーファルは戸惑っていた様だったけど、まあいいか。それにしても心地いい、さっきまで一人だったのに。信じられないけど現実なんだ。わたしだって普段から男の子に積極的な訳じゃない。一人だったのが二人に増えて、ひとりぼっちじゃないのが嬉しくて、つい存在を確かめてしまう。長い廊下を歩いてジャーファルをお風呂場に案内して、タオルと着替えを取りに行く。再び長い廊下を歩いて、わたしの部屋がある二階へと階段を登りながら考える。着替えはどうしよう。学校のジャージでいいかな、ミョウジってゼッケンついてるけど、わたしより少し大きい彼に合う服がこれくらいしかないし。部屋に入ると、タオルとジャージを引っつかんで風呂場へと急いだ。だって、もしジャーファルが服を脱ぎ始めてて、そこに出くわしたり…いくらなんでも、出会ったばかりの少年少女がお風呂場で脱いでるところ鉢合わせ、なんてどこかの少女漫画みたいじゃないか。そんな展開は…嫌だ。
戻って来たら、すぐにわたしの心配は必要ないとわかった。どうしてって、ジャーファルは不審者と化していたのだ。その様子は挙動不審で、シャワーを片手にシャンプーや固形石鹸をまじまじと眺めて、恐る恐る触ろうとしていた。どうしてって、わたしが聞きたい。
(20121230)
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