縁側の外にいた雪にまみれた銀髪の少年は、ジャーファルと名乗った。彼はなんでここに来たかわからないと言う、けれどここに来てくれた。それだけで十分だった。うんうん、とわたしは頷きながら、彼の頭を撫でる。その表情は何なんだコイツは、と嫌さ加減丸出しだけど、ちゃんと泊まるって返事して素直でよろしい。なんだ、この小動物みたいな感じ、可愛く見えてきた。
「あの、」
わたしの手を払いのけてジャーファルは言う。おっと、湯のみに手が当たるところだった。
「多分同じくらいの年齢だと思うんです。変に子ども扱いはやめてください。」
「あー、つい、ごめんね。」
ついね、可愛く見えちゃって、は言わないでおいた。頭を撫でられた程度で燗に触るんだもん。背丈だって、少し並んだくらいだけど、わたしと変わらなかったじゃない、女の子みたいな顔してるのに、さっき握った手は少し大きくて、男の子なんだなあ。
「ではジャーファル!」
勢い良く呼び捨てにしてみた。
自分から言ってきたんだから、これくらいいいでしょう。
「…なんですか、ナマエ?」
くすり、と笑って同じく呼び捨てで返して来た。意外とノリがいいんだね。うん、やっぱり笑顔が似合う男の子だ。
「ジャーファル、冷えた体をあっためるのはやっぱりお風呂だよ!お風呂に入ろう!」
おふろ…?きょとんとして「おふろ」と繰り返す。あれ、お風呂知らない?海外ではよくシャワーしか浴びないって聞くけど、ジャーファルもそうゆう国の出身なのかな。
「おふろだよ、お風呂!えぇっと、大きな箱にお湯を溜めて体を沈めてあったまるやつ!」
この余計な心配がマズかった。わたしとしては、さっきの日本茶にしてもそうだし、日本文化についてあまり知らなさそうだから、ただの親切心だったのに。ここから軽くジャーファルのお説教が始まった。
「それくらい知ってます!私をいくつだと思ってるんですか!大体ナマエ、あなたは見ず知らずの私を家に上げて、風呂に寝床も提供して危機感が足りません!もし、私が敵国の間者だったらどうするんです!?」
まあ、、まあ、、言ってることは大体当たってるし(最後のは理解できなかったけど)というより、ジャーファルってこんな性格なんだね、知らない所に突然やってきて疑心暗鬼になるのはジャーファルのはずなのに。自分のことよりわたしの心配してくれる。ふふ、思わず笑みが漏れちゃう。
「何笑ってるんですか!」
「んー、なんか楽しくて。」
楽しいなんて言ってる場合じゃないだろ!とまだ続きそうだったけれど、家主のわたしがいいって言ってるんだから、問題ないでしょ?と言えばジャーファルは渋々口をつぐんだ。あれ?家主?
「そうだ!おじいちゃん!」
わたしが声を上げたと同時に部屋の襖が空いて、金髪を靡かせたおじいちゃんが立っていた。
(20121229)
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