縁側の少年





さてさて、状況を整理しよう。
時刻は午後二十一時過ぎたところ、わたしは夕飯を食べ終え、うだうだと一人惰眠を貪り、この家のスーパーアイテム炬燵からようやく離脱してお風呂へ行くところだった。そこへやって来た縁側の外の少年。怪しい、見るからに変だろう。状況からして、屋根から雪と共にずり落ちた感がある。少年の髪の毛も、顔立ちも日本人じゃなさそう。大体なんで家の庭にいる?盗み?何しに来たの?色んな疑問があったけど、わたし口にする台詞はこれに決めた。


「だいじょうぶ…?」


窓をガラリと開ける。しまった、言葉が通じないのかな?少年はわたしをじっと見つめたまま動かない。それより、わたしに気づいてなかった様で、話しかけられて驚いた表情をしている。


「…あの、寒いです」


だろうな。あ、しかも言葉が通じてる、良かった。わたしは少年を見下ろしたまま納得して、とりあえず上がりなよ、と手を伸ばした。わたしの手をとった少年の手は冷たかった。





「で、君は誰?」




身体についた雪を払って、ひとまず炬燵に入って暖まっている少年。炬燵だけでは寒いかなと思って、湯気だつ日本茶を彼の前において、わたしも向かい合わせに炬燵に入る。


「わたしは、ジャーファルと言います」



「…ジャーファルくんか、あ、えと、わたしはナマエです。あなたはなんでウチの庭にいたの?」


「なんででしょう、自分でもわかりません…気づいたら雪の中にいて、落ちて…」


でも、帰らなくては、そう続けるジャーファルはとても狼狽している。


「そうは言っても、外は雪だし、沢山積もってる、夜道は危ないよ。歩いて帰るって無謀だよ」


とりあえず、落ち着いてお茶でも飲んで?笑顔で言うとジャーファルの顔も少しだけ緊張が解けた気がする。はい、と答えたジャーファルは湯のみに手を伸ばす。それはそれは恐る恐る。やっぱり日本の文化に馴染みがないのかな、その辺はこれから聞こう。毒なんて入ってないから!笑い飛ばせば、笑ってくれた。それだけなのに、なんか嬉しい。



「あったまるし、美味しいでしょ?お茶。ウチのじいちゃんが育てた茶葉だなんだよ」


「おじいさんがいるんですか?」


「うん、でも今は飲みに出かけてていないの。今って言っても毎晩いないけどね」


「わたしの大事な人も一緒です。お酒が大好きで、毎晩飲んでます」


ふふ、と笑い合った。和やかな雰囲気、彼自身わからないって言ってる以上、何故ここにいるのか理由を問い詰めてもわからないだろう。めんどくさいのは嫌いだし、また明日にしよう。そう、また明日。


「今日はここに泊まりなよ」


はあ?とでも言いたそうな目つき。そんな疑わなくたっていいのに、見たところ同年代だし、いい話し相手になりそうじゃん、おじいちゃんのことは、うん、心配ないし、それになにより、なんでここに来たか気になるし、わたしはただ、うん、そう、


「…退屈だし、ジャーファルくんが泊まってくれたら嬉しいな…」


ぽつり、と呟いた言葉はしんとした部屋の中どうやら彼にも届いた様で、少しの躊躇いの間の後、一言はい、と聞こえた。








わたしはただ、寂しいのだ。








(20121229)





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