語る少年




眠たい。無茶苦茶に眠たい。このところ夜更かしが定番化してる気がする。夜更かしって言っても0時前には眠っていると思うののだけれど、毎晩となると辛いのだ。テレビやインターネットなんていう娯楽の類が無いおじいちゃんちは、特に夜更かしする程時間を潰すものもないのだけど、このところ、毎晩ジャーファルが自分が来た世界のことを聞かせてくれるのだ。初めて来た日以来お互いに触れなかった話題だけれど、一悶着あって?あったおかげで?色々話せるようになった。ジャーファルが来たのはとても気候のいいところだとか、迷宮というところからやって来たとか、ジンがいて、魔法や体術を使うことや、シンドバッドさんという人と、仲間の人たちと航海をして、旅をした話、どれも御伽噺みたいでわたしはいつも聞き入ってしまうのだ。ジャーファルが、元暗殺者だったなんて話は未だに信じてないけど。だって、こんなに優しい人が人を殺すことを生きる糧にしていたなんて信じられない。けど、あんまりにもサラリと言ってのけてしまうものだから、なんだそうかそうかと、すとんと受け入れてしまった。

「シンと出会って私は変わったんです。」

シンっていうのはシンドバッドさんのことで、ジャーファルの話の主な登場人物だ。ジャーファルがとても信頼を寄せてる人だと言葉の端々から伝わってくる。素敵な人なんだね、というとジャーファルは照れ臭そうに、はい、と答えた。でも酒癖が悪いので要注意です、とも真顔で言ってた。あ、初めて来た日に私の大事な人もお酒が好きで毎晩飲んでるって話してたのはシンさんのことか、納得。こんな風に糸を紡ぐようなおしゃべりを毎晩している。



「もう時間ですよ!ナマエ早くおきなさい!」


まだ昨夜の続きを話しているみたいで、ぼんやりとした意識の中ジャーファルがわたしを揺り起こす。早く起きないと遅刻しますよ!これで覚醒する。つい二日前に学校が始まったのだ。わたしは結局この街の学校に編入することになり、丁度冬休みがあけた二日前から新しい学校に通い始めた。ジャーファルも一緒に通えれば楽しいのに、そこは一家の家長おじいちゃんの一言である。義務教育の年齢でもないし、もう少し様子をみよう、とのことで。おじいちゃんがなぜこんなにもジャーファルを受け入れているのか疑問だけど、考えてくれてるならそれでいいかなとも思うことにした。そんなわけで、ジャーファルはまだしばらく家で家事手伝いの身となった。

「忘れ物はないですか?あ!ほらお弁当ですよ、横にしないで!気をつけて持っていくんですよ。」

支度をして慌て朝ごはんを流し込むと、玄関でジャーファルが待ち構えていた。今日もピンクのエプロンがまぶしいよ、お母さん…いやジャーファル。お弁当まで毎日こさえてくれるから、どんどんお母さんに見えてきちゃう。


「じゃあいってきます!」

「いってらっしゃい!気をつけて!」

駆け出してジャーファルに手を振ると同じように振り替えしてくれた。学校が始まってもおじいちゃんがいて、ジャーファルもいる、変わらない日々が続くことが嬉しい。わたしはひたすらにこんな毎日が続きますように、と願うのだ。


(20130119)


prev next


back




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -