心のもやもやがどうしようもなくて、初めてジャーファルに背を向けて眠った。眠りに落ちる前に、気配で部屋に入ってくるのがわかったけれど、正直に言えばどんな風に顔を合わせていいかわからないし、振り返ることができなくて、そのまま背を向けていた。ジャーファルも特に声をかけず暫くのうちに去って行った。わたしはなんでこんなに不器用なんだろう。今までこんな風に喧嘩みたいなこと、する相手いなかったし、だから、どうやって仲直りしたらいいのか、わからない。そうして涙の雫が落ちながら、わたしは眠ったのだ。
朝起きて、いつもの癖でジャーファルの布団を見てしまう。毎朝わたしより早く布団を出ていないのに、今朝に限っていたのだ。がちっと目があってしまい、さっと思わずそらしてしまった。そう、わたしたち昨日喧嘩したんだ。でも、あきらかにわたしが一人で感情的になってわたしが悪いのだからちゃんとあやまらくちゃいけないのに言葉がみつからない。
「おはようございます。」
もぞもぞとジャーファルが布団の中から手を出してきた。わたしにも手を出す様促しているような微笑みでわたしをみてくるから、ゆっくりと、そっと手を出す。ふるえるようなわたしの手をしっかりとジャーファルは掴んだ。
「こんな風に、朝一緒にいるの初めてですね。」
「…ジャーファルがいつも早いからだよ。」
言わなくちゃ、ごめんね、って。わたしばっかり一方的に怒ってしまったことをあやまらなくては。
「ごめんなさい。」
この言葉はジャーファルのもの。
どうして、わたしじゃなくてジャーファルがあやまるの。疑問を瞳に浮かべてジャーファルを見やる。また目が合って、今度はそらせなかった。
「ナマエは私のことを大事に思ってくれているのに、それを考えずに私は…その、ごめんなさい、ナマエ。」
ジャーファルだって、わたしのことを考えてくれていたのが痛いほど伝わる。どちらの世界を選んでも、悲しくなるのはきっとジャーファルなのに。
わたしこそ自分のことばっかり考えてあんなこと言ってごめんね、と言いたかったけどまた自然と涙が出てきて上手く伝わったかわからない。けど、ジャーファルは慰めるように頭を撫でてくれた。
「私はいつか元の世界に戻るかもしれませんし、もう戻れないのかもしれません。どうやってこちらに来たのかわからないように、あちらに帰る方法もわかりません。だから、こちらにいる時は、ずっとナマエと一緒にいます、…それではだめでしょうか。」
この手を離さないでください、とジャーファルは最後に言った。だめなわけがないのだ。だって、どちらを選択しようとも、それはジャーファルの自由であり、帰るにしても、やっぱりわたしが止める権利なんてないのだ。引きとめたってきっと彼は行ってしまうのだろう。彼の目を見ていて、そう思った。
わたしのひとりぼっちの世界にジャーファルが来てくれただけで、初めは嬉しかったのに。ずっと一緒にいたいって思うようになって、だから帰らないでって思うなんて。わたしはなんて欲張りなんだろう。ジャーファルと出会わなかったらこんな気持ち知らなかった。
「ありがとうジャーファル。」
「いえ、私こそありがとうナマエ」
繋いだ手を離したくない。そろそろ起きて朝ごはんの支度に行かなきゃ。
でも欲張りなわたしは思うのだ、もう少しこのままでいさせてね、ジャーファル。
(20130116)
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