祈る少年





たん、たん、たん、


足音だけが響く静かな夜。
その音は二人分で、わたしとジャーファルのものだ。私たちは年越しをして、早速初詣に近所の神社に向けて歩いていた。別に夜中にわざわざ出なくても、明日の朝でも別に良かったのだけど。ジャーファルは、うん、目立つのだ。銀髪が着物を着てこんな田舎を歩いてたら目立つだろう。顔もきれいだし。人目があまり気にならない夜なら大丈夫かなあ、と考えて年明けと共に出ることにしたのだ。しかし夜更けは心底冷える。ジャーファルは着物だけじゃ絶対寒いと案じて、着物には不釣合いだけどダウンでも貸そうか?と尋ねればちゃっかりおじいちゃんから外套を借りていた。用意周到というか、なんというか。結局そのダウンはわたしが着て今に至る。


「ほら、着いたよここが神社!」

赤い大きな鳥居を目の前にして、ジャーファルの目がきらきらしていたような気がする。神聖な場所は、世界が違う人にもやっぱりわかるのかな。神社には少なからずわたしたちと同じように初詣に来てる人がいた。家族連れがおみくじ引いてはしゃいでたり、老夫婦が一生懸命手を合わせてたり、あ、おじいちゃんも友達と御神酒飲んでる。夜更けだというのにお祭り騒ぎだった。みんな自分たちのことに夢中で、ジャーファルには気づいてないみたい。ふと目が合う人がたまにいるけど、ああ、あのおじいちゃんの孫の友達なんだな、と納得した素振りで穏やかに笑い返してくれる。変人の孫は連れてる友達も変わってるなあ、そんな台詞が聞こえてきそう。気にしないようにして、わたしはジャーファルの手を引いてお参りの列に並んだ。


「順番が来たら、二礼二拍手一礼してお願い事するんだよ。心の中で言ってね。」

「二回礼をして、二回拍手をして、一回礼…わかりました。願い事は声に出さないんですか?」

「声に出した方が神様は良く聞いてくれるっていうけど、だって…自分の願い事人に聞かれたくないもん。」

「ナマエも可愛らしいとこがあるんですね。」

「余計なお世話です!とにかく、願い事は内に秘めてるものなの。」

「はいはいわかりました。こっそりお願いしますね。」


こんなやり取りをしてる内に番が回って来た。初詣に来るなんて久しぶりだし、この年が明けた幸せな雰囲気に酔っていたのかもしれない。つい、願ってしまうのだ。口には出せない、ジャーファルとこのままずっと一緒にいれますように。


甘酒であったまりながらおみくじを引けば、わたしは末吉、ジャーファルは中吉、なんとも言えない微妙な結果だ。

「いいなあ、中吉。」

「すえきち、より良いのですか?」

ぶつぶつ文句を言いながら木にくくりつける。どうせ引くなら大吉だけど。末吉だなんて、なんて微妙な結果だろう。まるでこの先良いことがあんまり無い暗示みたい。


「所詮運試しですよ、どう受け止めるかは自分次第です。あんまり気落ちしないで、ほら。」


ジャーファルがわたしの手に手を絡めて来た。寒いですから、そんな言い訳通じない。だってジャーファル耳まで真っ赤になってる。寒さのせい?それとも繋いだ手のせい?神様ごめんなさい、良いことありました。末吉で満足です。

「ナマエは何をお願いしたのですか?」

「な、内緒って言ったじゃん!」

「ではわたしも内緒です。」

繋いだ手をぎゅっと握り返して来た。ジャーファルは何をお願いしたのだろう。やっぱり元の世界に帰りたい?仲間のもとへ帰りたい?わたしはジャーファルがいなくなったら寂しいよ。また一人になってしまう。もうこの笑顔も、少し大きな手も、綺麗な髪も触れることができなくなるなんて。



わたしもぎゅっと握り返して、ぽつり、ぽつりとある薄明かりの街頭に照らされながら二人帰り道を急ぐ。寒いね、帰ったらまたお風呂入りたいですね、でも眠たいよ、身の無い会話を繰り返していたけど、身を寄せ合って、繋がった手は離れなかった。




どうしたらいいんだろう、わたしはどうしたんだろう、心臓のどきどきがうるさくてたまらない。




(20130113)


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