変わる少年



三人で分担をして掃除をしたけれど、割と時間がかかって終わった時は既に夕飯の支度をしなくてはならない時間だった。今日は大晦日だし、なんとなく御節を用意してその余りを食べようかなあって考えていたけど、私達がボトルを拭いてる間におじいちゃんがせっせと用意してくれていた。黒豆の甘い香りやなますの酸っぱそうな匂い、筑前煮は美味しそうに光っていて、食欲をそそられる。すっと手が勝手に伸びてつまみ食いしたらおじいちゃんに怒られた。ジャーファルはこういう時、上手いなあと思う。おじいちゃんに見つからないでこっそり食べておいしいですね、なんて耳打ちされた。このやろう、ってぽかぽか叩いてやると戯れてないで早く手伝えってまた怒られました。


夕飯を済ませて順番にお風呂、いつも一番風呂はおじいちゃん、次いでジャーファル、終い風呂にわたし。なんだか慌ただしくてやっと年が暮れるんだなあと実感しながら湯船に浸かった。このあといつもと違って少し夜更かしをして、夜中にジャーファルとお出かけするんだなって考えるとにやけてしまう。なんだかこっそりデートをするみたいで、心が弾む。こんなにうきうきして、わたしはどうしたんだろう。


お風呂から上がればおじいちゃんはもう飲みに出かけてて、ジャーファルはパシッと着物を着ていた。いつも着てる織物じゃなくて、もっと上質そうなのを着てた。


「なんか雰囲気違うねその着物。」


「おじいさんが今日は神社に行くのだからこれを着なさいって出してくれました。」


触ると柔らかくて多分絹地でわたしにだって上物だって解る。ジャーファルばっかりずるい!と袖を引けばジャーファルに頭を撫でられた。あ、そういえばジャーファルに撫でられるの初めてかも。明日ナマエにも着せてやるって言ってましたから、今日は我慢してください、ね?なでなで。ジャーファル、なんだか始めと比べて雰囲気が柔らかくなってきた気がする。うっかり悪い癖が出て口に出していたみたい。


「そうかもしれません。けど、たぶん…ナマエの扱い方がわかってきただけですよ。」


頭上の手がするすると頬に降りてきてうわっと声が出た。これか、扱い方って…ジャーファルって結構いじわるなとこがあると思う。わたしの反応を楽しんでる時があるのだ、こんな風に。慣れって恐ろしい。けどジャーファルの悪戯にいちいち意識しちゃう自分がもっと恐い。


「さあ、お蕎麦っていう物を準備するんですよね、早くしないと日付が変わっちゃいますよ。」


あっ!と時計をみればもう十一時を過ぎていて二人で慌てて台所へ行く。おつゆの支度はおじいちゃんがしてってくれたから蕎麦を茹でるだけ。あっと言う間に完成したと思ったけど、時刻はもう十一時半で早く早く!とジャーファルを急かしながら炬燵部屋に蕎麦を運んだ。


二人で炬燵に並んで座った。いつもは向かい合わせだけど、時計が見える位置に二人で並んで座った。おじいちゃんちにはテレビが無いから、時計が唯一年越しを知らせてくれるアイテムである。洗濯機や冷蔵庫という文明の利器にはお世話になってるのに、テレビには興味がないのがおじいちゃんらしい。なんでもどうしても受け入れられないそうな。いつかジャーファルにもテレビを見せてあげたいな、どんな反応するんだろう。テレビを見るジャーファルを見たい。


「ナマエ顔がにやけてますよ、気持ち悪いくらいに。」


「いちいち人の顔覗かないでよ!もう!それより延びちゃうから早く食べて。」


そう言われても、とジャーファルは困惑顔で蕎麦を見つめていた。そうか、知らないか。わたしがお手本とばかりにずるずると蕎麦を啜ると行儀悪いですよと諌められた。


「蕎麦を食べる時は音を立てるのが常識なんだよ。」


もぐもぐ食べながら説明すればまさにカルチャーショックという顔をしていた。異文化って面白い。一生懸命レクチャーして、ジャーファルも一生懸命それに応えてくれたけど、結局ジャーファルは最後まで音を立てて蕎麦を食べれなかった。体が自然と拒否するらしい。その姿が面白くて笑いながら蕎麦を食べた。蕎麦を食べてるだけなんだけどなあ、楽しく思う。遠くから除夜の鐘が聞こえてきて、ああいよいよ年越しだと感じた。


ボーン

ボーン

と厳かに静寂の中響き渡る鐘の音。さっきまで蕎麦に苦戦していたクセに急にかしこまって良い音ですね、とジャーファルが言う。鐘の音と共に私達の間にも静けさが戻ってきた。


「そろそろ年越しだよ。」


「いよいよですか。」


「この一年はどうでした?」


「この一年は…大変でした。まさか年の瀬にこんなとこに来るなんて。」


「それもそうだね。」


カチ、カチ、と徐々にカウントダウンが迫る。


「ここに来て良かったって思ってます。初めは戸惑いましたが、おじいさんやナマエが暖かく迎えてくれて感謝してます。」


「ほんと?じゃあ、これからもーーー」


そこまで言ってつい口を閉ざす。ちがうちがう、今から言うべきことは、



「…なんでもないよ。あけましておめでとうジャーファル。」




(20130112)


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