約束と少年





除夜の鐘を聞きながら、年越し蕎麦を食べて、初詣に出る、その前に大変重要な仕事がある。大掃除だ。いつもこの家を掃除するのは一人きりなのに、今年は二人も人手が増えたとおじいちゃんは喜んでいた。散歩から帰ってきた八十吉掃除隊長の命を受けて、ジャーファルはわたしたちの部屋から、二階全体の掃除。わたしは台所、風呂場、を中心に一階担当。隊長は窓と庭だそうだ。水回り担当はわたしだけでひどいっとも思ったけど、ジャーファルの二階掃除の苦労を考えたらまだマシかと思い直した。

それぞれ現場について、掃除スタート。一番億劫な水回りから始めて、それから玄関、客間、廊下、と掃除をして炬燵部屋に差し掛かった。初めに上から埃を落として、お茶がらを畳にまいて箒ではく。すると湿った茶葉に畳の間に入り込んだ埃が巻き付いて綺麗になる。その後乾拭き、畳は乾拭き厳守である。小さい頃におじいちゃんに教わったことを先ほどジャーファルにも伝授した。きっと今頃二階で実践しているとこだろうな。乾拭きに精を出しつつ、二階でのジャーファルに心で声援を送る。二階といえば、最早ガラクタ置き場である。それらの埃を全て払い、掃除するのも大変だろうに、大して量はないけど扱いに困るものばかり。がんばれ、ジャーファル。旅行が趣味のおじいちゃんは世界各国を巡り、訳のわからないガラクタ、いや個性的なお土産を持って帰ってくる。必ず買ってくるのが、各地の地酒。日本各地の焼酎、日本酒、フランスのコニャック、ワイン、イギリスのスコッチ、ジン、ロシアのウォッカ、メキシコのテキーラ、これだけではないのだ。いま述べたのはわたしにも読めるアルファベットがラベルに表記されてるというだけであり、その他言語がわからないボトルが山のようにある。あまり触れたくもない虫入りのゲテモノボトルもある。それはもう沢山のボトルが炬燵部屋の神棚に並べてあるのだ。ついに残すはここだけとなり、一つ一つ手に取って綺麗に磨き上げていく。おじいちゃんが大事にしている宝物なんだ、丁寧に丹念に磨き上げなくちゃ。


「ナマエ一階は終わりました?」

「!ジャーファル、びっくりした。もう二階終わったの?」


「おじいさんが途中で来てくれて、お陰で早く終わりましたよ。後はナマエを手伝ってくれって。」


「そっか、ありがとう。じゃあジャーファルもボトル拭くの手伝ってくれる?」


「はい、もちろん。」


タオルを手渡し二人で作業を進める。拭きながら、わたしは小さい頃におじいちゃんに、そんなにお酒美味しいなら一つボトルを開けてよ!って駄々を捏ねた話を始めた。もちろんおじいちゃんにやんわりと叱られたけど、一つ約束を交わしたのだ。大人になったらこれを一緒に飲もうな、と。




「その時が来るのが待ち遠しいですね。」


「うん、その時はおじいちゃんが参った!って言うまでここのボトルを開けてやるんだ!」


ジャーファルがくすくすと笑う、その笑顔が出会った日から頭から離れない。始めは来てくれただけで嬉しかったのに。どこから来たなんて問題ではなかった。ずっと一緒に笑っていれたらいいのにってただそう思うけど、彼には帰る世界があるのだ。ここで同じ時間を過ごしているのに、一緒に過ごせば過ごすほど、彼はここの人間じゃないのだと感じるのだ。ずっと一緒に過ごせたらいいのに、そう思うのはわたしだけかもしれないし、いつか、突然に、元の世界に戻ってしまうかもしれない。だから、この先の、これからを約束する言葉を言えない。



"その時はジャーファルも一緒にね"



口にすれば簡単なはずのに、ジャーファルがこの世界に留まって欲しいと思う気持ちが強いから、そんなこと言えなかった。


絞り出せるのは今からの話しだけ、さあ、拭き終わったから年越しの準備をしようか。



(20130108)



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