着物と少年





身支度も整えて、ジャーファルお手製の朝ごはんを味わうため炬燵部屋に入った。炊きたてのご飯、焼きたての魚、香り漂うお味噌汁、今朝のご飯も美味しそう。わたしの名誉のために言いますけど、このくらいわたしだってできる。けれど、わたし以上にジャーファルが器用なだけです。二人でいただきますの挨拶をして食べ始めた。いつも朝は二人で食べてる。おじいちゃんはいつもジャーファル以上に朝早いので先に朝食を済ませて、日課の散歩中かな。


「今日はね、大晦日っていう一年の締めくくりの日なんだけど、ジャーファルの世界にもこういう日あった?」


お椀に手を添えながら聞いてみる。ジャーファルの世界とは、初めて来た晩ぽつりぽつりと話してくれたのだけど、未だに信じられない。わたし自身半分夢の中だったから、ジャーファルの話はやっぱり夢だったのかと思っていた。でもまさか、ということばっかり続いて…日本を知らないし、日本語が読めなかったり、大体散々使った炬燵すらこれは何ですかって聞かれた。電気が点いたり消えたりするのも不思議がってた。文明開化の音がするってこのことかと思った。こんなことが沢山あって、結局ジャーファルの言う通り彼は異世界から来たんだなと納得してしまった。わたしにとっては、その点はさして問題ではないかも。願わくば、この先も、、、


「おおみそか、ですか?聞いたことはありませんが、年が明けるということですよね。私の世界では皆で一晩宴を催す程度でしょうか。」


「宴かあ、日本はもっと静かかなあ…なんて言っても日本はワビサビの文化だから!除夜の鐘を聞いて、年越し蕎麦を食べて、初詣に行くの!」


「ワビサビ?」

「侘しい寂しいっていうことだって。よくわかんないけどおじいちゃんが言ってた。ジャーファルが着てるその服も着物っていって日本の民族衣装だよ。」


そう、ジャーファルは着物を着ている。実は最初一番困ったのが着るもの。なんせジャーファルが来た時は大雪で買い物にも出れないし、ジャーファルの着ていた服じゃ寒すぎるし、ウチにはジャージは一着しかない。そんな時、すっとおじいちゃんが出して来たのが若い頃着てたっていう着物だ。もう雪もすっかり溶けたし、お古じゃなくて新しく服を買いに行こうとジャーファルを誘っても、どうも着物が気に入ったらしく、これがいいんですと言ってた。背筋が伸びて気持ちいいんだとか。おじいちゃんの年月を重ねても繕えば一生着れるという話にも感激してた。そういうわけで、ジャーファルの普段着は着物で落ち着き、ジャージは寝間着へ。正直なところ着物姿のジャーファルはとっても似合うと思う、けどピンクのエプロンをやめて欲しいな。雪もすっかりマシになったから、買い物に出たいのが本音だったり…そういえば、ジャーファルが来てから雪が降ってない気がする。


「この着物、私は好きです。着ると気持ちが張って、心が晴れるみたいです。この世界のこと、日本のことをもっと教えてください。」


「ジャーファルがこの世界を気に入ってくれてよかった。じゃあ今日は一緒に大晦日しよう!」


「はい。」


年越しといえば、いつも家で一人きり。年越し蕎麦だってもう何年も用意されない、そんな家庭だった。わたしという寂しい人のもとに、ジャーファルを寄越してくれた神様に今夜きちんとお礼を言わなくちゃ。





(20130107)


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