お母さんな少年





爽やかな風が太陽の光に輝く若葉を揺らしている。ゆらゆら、繋いだ手のぬくもりを離したくなくて、しっかりと握りしめる。ぐっと力を込めたのが伝わったのか、わたしの一歩先を歩く緑の青年が、こちらを振り返る。わたしの名前を呼んで、それで、ーーー




ぱち



目を開けると見慣れた天井が広がった。なんだかとても幸せな夢を見た気がする。…全然覚えてないけど。気怠い身体を起こして隣を見る。あれ?ジャーファルがいない。布団を並べて一緒に眠りについたのに、彼の布団はもぬけの殻だった。








「ジャーファル!」


「ナマエ、起きましたか?おはようございます。」



いた。

朝から笑顔を絶やさない彼は、わたしより早く起きていつも台所にいる。毎朝わたしは隣にいない彼が心配で、慌てて階段を駆け降りてここへ来るのが日課になっていた。もうジャーファルがここで生活を始めて今日で六日目だった。

初めこそ不慣れな生活に、いや、不慣れな文化に戸惑っていたようだけれど、彼の知識の吸収力は凄まじいもので、まるでスポンジとはこのことだ。教えることをあっという間に覚えて馴染んでいった。初日はシャワーにすら驚いていたのに、今では普通に台所で大根を洗ってる。シャワーのお湯に恐れ慄いていたのに、ガスを使いお鍋で出汁をとってる。あ、今朝は大根のお味噌汁だ。ぼうっと見てないでわたしも手伝わなくちゃ。彼はお世話になるのだから、とよく家事をしてくれている。けど、家政婦さんみたいなことしなくても、わたしはジャーファルを歓迎してるし、わたしだってやることはやるのだ。お玉を手に取ると、ぱっとジャーファルに奪われた。


「こちらはいいですから、早く顔を洗って身支度を整えて来て下さい。まだ寝間着じゃないですか、それに寝癖も酷いです。」


「えっ、うそ!!」


このところ、わたしのピンクのエプロンをつけたジャーファルが、お母さんに見えて来たのは幻覚だろうか。

お母さんに言われた通り今朝の寝癖はやばかった。洗面所に駆け込み自分の姿にびっくり。ほんと、酷い寝癖だ。バシャバシャと顔を洗うと気が引き締まる。タオルで水分を拭き取りながら心でジャーファルにごめんねと誤る。なんだかんだ、毎朝この調子だ。



ジャーファルが来て六日、今日はいつもと違うイベントがある。今日は十二月三十一日、大晦日だ。




(20130106)




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