私はまだ知らない






綺麗な銀髪、こんなことを言われるのは私の人生において二回目だ。たったの二回目という少ない数が、いかに周囲から銀色の髪というものが珍しく、忌わしいものなのかを物語る。一度目は私の恩人であり、一番の信頼をおいてるシン。そして二度目は、先程出会ったばかりの少女、ナマエだ。ナマエはよく笑い、私を受け入れてくれた。彼女の祖父もそうだ、何も問わない。ただ居場所をくれた、私が何者であるかまだ話してもいないのに。ここの住人は暖かすぎる。私の過去は少し、暗いもので、シンに救われたけれど、こんなに暖かな場所にいてもいいのだろうか。


ザブンと湯船から出て、ナマエの準備してくれたタオルで体を拭き、着替えに手を通す。上着に何か文字が書いてあるが、知らない文字だった。言葉は通じるけど、こちらの文字は読めないようだ。何故か、なんて考えても仕方ない、さっきのシャワーという代物だってそうだ。魔法で水を出しているのか?と聞いたらまるで私の頭がおかしいかのように否定された。きっとこちらには魔法という概念がないのかもしれない。そしてここは、私たちの世界より文明が発達しているのだ。それより、考えなければならないのは、どうやって帰るか、である。思えばシンには何も告げずこちらに来てしまった。正しくは、言えなかった。迷宮攻略中、雪が降ってきたと見上げれば既に視界は変わっていた。最初はこれはジン見せる幻想で、いまだに迷宮の中かもしれないと思っていたけど、多分、ここはわたしの知らない異世界だ。どうすれば元の世界に?まだシンと、仲間たちと、国を興したばかりなのに。早く戻らなくては、仲間がみんな待ってる。皆を心配させてはいけない、早く戻らなくては、そう思う。けど一方で気づいている、私の本音。



早く戻らなくては、



このまま誰にも心配されず、誰も待ってくれず、私の居場所がなくなるのが怖いのだ。


私はいつから他人を、居場所を、こんなにも求める様になったのだろう。





「ジャーファルー!出た?次わたし入るねー!」


扉のその向こうから私を呼ぶ声がして、はっと我に戻る。ナマエと入れ替わり、彼女に言われた通り先程の部屋へと歩いて行く。そういえば、前に旅先で仲間たちと泊まった宿もこんな雰囲気だったかな。シンと出会ってから、私の全てはシンが変えたのだ。こんな風に何かを、誰かを思う感情を与えてくれたのもシンだ。ナマエは、退屈だからと言って私を引き止めてくれたが、私には解る。私に手を差し伸べた彼女が、退屈だという彼女が、シンと出会った頃の私そのものなのだ。表情からではなくて、彼女の内から伝わってくるその寂しいという気持ちが、昔の私なのだ。




私がここに来た意味は、なんなのだろう。私の髪の毛を綺麗だと言ってくれたナマエに私は何ができるのだろうか。



この世界のことも、彼女のことも、まだなにもわからない。




(20130103)


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