Strawberry Sunday
本日も、とある有名なデビルハンターの事務所は
陽気なロックサウンドが響き渡っている。
ベースの重低音に、サウンド機材の近くに配置してある1mを超える観葉植物の葉が振動で揺れているのを視界に入れつつ
私はBarカウンター用に購入したヴィンテージもののスツールをくすんだ灰色のフローリングを滑らせるように移動させる。
どんっとロックサウンドに負けない大きな音を立てて、事務所の店主が陣取るデスクの前へスツールを置いた。
するとお行儀悪く、だらんとデスクに乗せていた憎たらしいほどスタイルが良い絡んだ両足がびくりと飛び跳ねる。
「おいおい、.。随分ご機嫌だな」
そう肩を竦めながら、
ダンテさんは読んでいた情報雑誌を閉じて乱雑にデスクへと放り投げた。
何だかんだ言いながら話を聞く体制になってくれた事に私はにこにこ、と笑みを浮かべる。
「ふふふ!」
「なんだよ、気でも違ったか?」
それに何かを感じ取ったらしいダンテさんは大げさに整った眉を顰めてやれやれ、と呆れ気味に笑った。
かなり白々しいのでさっき投げた雑誌で眉間でも貫いてやろうかと思ったけれど、これに負けては私の笑顔大作戦が台無しなのである。ぐっと我慢だ。
正直な話をすれば私には貫く実力すらないけれど・・・火事場のど根性を信じてる。いつかやってやるからな、てやんでい!
とすん、
と軽くスツールに腰を落としながらデスクの上に両肘を立てて頬杖を付く。
同時に荒ぶる心を落ち着かせるように更に笑みを深めて見せた。
「あのね〜お出かけしたいなぁ〜なんて思ったりして〜」
「なるほど、おねだりってわけか」
納得したようにダンテさんは片肘を使って私に習うようにして頬杖を付いた。
近くで見つめるダンテさんは悔しいことにやはりイケメンだ。アイスブルーの瞳があまりにも綺麗でとても悔しい。
「・・・・・・・・、どうせAutumn saleだろ」
オータムセール。
本場アメリカ人が言うと素晴らしい発音と共にある秋限定の魅惑のセール。
治安が少しずつ整ってきたとはいえ、事務所があるスラム街の現状は小売のマーケットが点々とあるだけなのだ。
ブランド品とかはあまり興味が無いけれど、やっぱり洋服を買うにしても市街地にある大型ショッピングモールでセレブリティに買い物をしたいに決まってる。
ましてやテレビでオータムセールのCMを見てしまったからには何としてでも行きたい!明日の事務所の為に!自分の洋服の為に!
「流石ダンテさん!すご〜い!エスパーなの〜?!やば〜い!」
私はわざとらしく語尾を延ばしながら、
ロックサウンドに合わせてゆらゆらと揺れた。
気分屋な彼の重たい腰を上げるのは笑顔でご機嫌に。
この作戦でいけば7割ぐらいの確立で上手くいくはず、きっと。
そしてダンテさんが面白く無さそうな顔をしながら溜息を付いた瞬間、私は微かな勝利を確信した。
「・・・・・・仕方ねぇな」
「!」
ほらね、上手くいった!
ダンテさんのお母さんから教えてもらった「恋人にお願い事をする時は笑顔と愛嬌、それからちょっとの度胸よ」の必殺技は今ここで活かされてます!
だけど彼はどんな時でも、最後の最後にはこちらの気持ちを大切にしてくれるんだよね。
それがとても暖かいんだ。
「ボディーガードでも荷物持ちでも、なんなりと」
ダンテさんはこの言葉と共に次の瞬間にはふわり、と優しい笑みを浮かべた。
裏稼業では知らない人は居ないとまでされているデビルハンターを荷物持ちにさせてしまう事に少しの優越感を覚えながら、私はその優しさに今度こそ心からの笑顔を浮かべるのであった。
そうだね、報酬は苺果汁がいっぱい詰まったストロベリーサンデーにしてあげなくっちゃね。