今日の部活はスタメンの奴らが特に頑張っていた。やはり俺の誕生日だからといつも以上に気合いを入れてきたのだろうか。誕生日というやつはなかなか良いものらしい。そんなことを薄々思い始めていた頃。
顧問の合図により一斉に片付ける。伊達に部員数が多いわけではなく片付けはすぐに終わった。これもいつもよりテキパキと終わったような気がする。その後もバタバタとせわしなく人は動き、各々残って練習するものや早々に帰る者とに分かれた。
普段なら自分も前者として残るのだが、何せ今日は特別な日のようで。帰らなくてはならない。ジャージから制服に着替えようと部室のドアに手をかけたところで。

「赤司くん」

今日は突然声をかけられることが多いなと思った。振り返ると桃井が紙袋を手にしたまま立っていた。その袋に首を傾げる。まさか桃井までもが祝ってくれるというのだろうか。桃井は満面の笑みを浮かべながら紙袋をこちらへ差し出した。

「誕生日おめでとう!」

そんな言葉も忘れずに。少し目を伏せて礼を言えばまた嬉しそうに笑った。受け取ってみると思ったよりは軽い。桃井手作りのケーキ、だなんて言われたときにはどうしようかと思ったけれど。それはないらしい。とりあえず一安心していると桃井が自信ありげに開けてみて、と言うので。ごそごそと中を見るとどうやらタオルと、あと何か小さな箱が入っているらしかった。桃井はタオルを指さすとどことなく呆れたような表情を浮かべながら口を開く。

「そのタオルはね、青峰くんが選んだんだよ。本当はアイツから直接赤司くんに渡させようと思ったんだけど意地張ってて」

まったく仕方ないんだから、と言う桃井の言葉にああ、と納得する。確かに人の誕生日に今朝のプリント一枚ではむしろ祝われない方がマシなのではと思うほどだから。なんだかんだと用意はしてくれていたようだ。本当に素直ではないというか、まあ照れくさいのは分からなくもないが。とにかく、これに免じて数学テストの点数を部室に晒すのは止してやろうと思う。おおかた桃井に無理やり選ばされたのだろうけれど。嫌々ながらタオルを選ぶ青峰を想像して少し笑う。
そのタオルをもう一度袋に戻したところでひとつ、小さな箱を見つけた。これは恐らく桃井からなのだろう。それを手に取ると桃井は微かに照れるようにして言う。

「あっ、それはね、置物なんだけど」
「置物?」

疑問に思いつつ小箱を開くとその言葉通り、手に収まるくらいの置物が二つ。透明な石が綺麗に象られ、中に何か木のようなものが描かれている。同じものが二つも。これは一体なんなのだろう。二つのうち一つを取り、まじまじと色々な角度から眺めてみる。すごく綺麗だ、とは思う。そんな俺の様子をにこにこと見ていた桃井は非常に楽しそうだ。

「この中に描いてある木は連理木っていって、縁結びの象徴なんだって」
「…縁結び?」
「うん。それでこの置物は二つで一つなんだけど、もう一つを一番大切な人に渡しておくと離れてもまた結ばれるんだよ」

そういう噂なの。そう言う桃井はどこか悲しそうでもあった。
…にしても、この置物。そういう迷信があるのか。そう妙に感心した。こんなものを信じるなんて俺らしくないと思いながらも。まあたまには悪くない。せっかくの厚意だから。有り難くもらっておくことにしよう。効果があるといいのだが。再び礼を言おうと口を開きかけたがそれより早く桃井が話し始めたのでとっさに飲み込んだ。

「私もテツ君にあげようかなって思うんだけど、ああ、テツ君受け取ってくれるかな!きっと高校も離れちゃうから渡せたら良いな〜、ううん、絶対渡す!私渡すよテツ君!」

キャーッ、と一人盛り上がって桃井は何処かへ走り去って行く。…何というか、桃井は黒子のことになると、こう、すごいな。恋する乙女というやつに呆気にとられた一瞬であった。

気を取り直して部室に入り、制服へ着がえる。そういえば名前はどこにいるのだろう。待っているとは言っていたが場所は聞いていなかった。まあそのうち見つかるだろうと根拠のない自信を胸に鞄を肩にかける。予想通り、部室から出てそう遠くないところに彼女はいた。体育館の出入り口に腰掛けてひたすら空を眺めている。なんと馬鹿面なことか、と内心笑いながら。

「何でわざわざこう寒いところで待つんだ」
「あ、赤司!」

俺の声を聞きぱっと立ち上がる。よほど寒かったらしく鼻が赤い。もっと暖かいところにいれば良かったのに。明日になって風邪をひきましたじゃ話にならない。カイロを渡すにもそれは朝に渡してしまったからもう無いわけで、ああ、どうしてここまで気にかけてやらなくてはならないんだ。帰ろうと俺の数歩先を歩く名前のすっかり冷え切った手を捕まえ、カイロの代わりに先程の置物の一つを渡した。あんな迷信、信じてなんかいないけれど。夢見るのだって悪くはないはずなのだ。

「わ、なにこれ綺麗!プレゼント?赤司の誕生日なのに私がプレゼント貰っちゃった!いいのかな!」
「今更だろう」
「ふふ、ありがとう!」

さして桃井も俺も、そう変わらないのかもしれない。

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