「緑間」

そう声をかけると緑髪の長身の男はこちらを振り向いた。いつもながら妙なラッキーアイテムを片手に。…今日はピコピコハンマーというやつだろうか。よく取り上げられないものだと感心する。
どうしたのだよ、とやはり風変わりした語尾を添えて首を傾げた。そのあまりにもシュールな光景をしみじみ見ながら本題に入る。

「名前を見なかったか」
「苗字?」
「ああ、担任に呼んでくるよう頼まれたんだが」

肝心なときにふらっと居なくなる。非常に迷惑な話だ。恐らく担任に呼ばれたのは他でもなく、この間のテストの点数に関する事ではないかと思う。確かあいつは青峰と同じかそれ以下の点数をとってきたような気がした。どうせ課題でも出されるのだろう。
そこまで予測しつつ、緑間の反応を伺う。すると暫くしないうちに首を振られた。まったく何処へ行ったのか。

「そうか、分かった。見かけたら連行してくれ」
「待て赤司」

じゃあ、と緑間の横を通り過ぎようとすると呼び止められる。思わずきょとんと緑間を見上げた。どうした、と問いかければ気を紛らわすように眼鏡をくいっと上げながら何かを突き出してくる。赤い円筒形になっているそれは、何だか懐かしいようなもの。

「…万華鏡か」
「お前の今日のラッキーアイテムなのだよ」

ふいっと顔をそらしながら早口に言う。大概こいつも照れ隠しが下手だな。緑間の手から万華鏡を受け取り、まじまじと眺めてみる。それにしても万華鏡とは今どき珍しい。軽く中を片目で覗くと、きらきらと光るそれらが多様な形を幾度となく繰り出していた。
ほう、と思わず感嘆の声をあげる。

「…綺麗だ」
「お前は欲しいものを口にしないからな、そんなものしか用意はできなかった」
「いや、十分だよ」

ありがとう。そう言うとあからさまに動揺した。やはり誕生日というのは面白いものをよく見れる日らしい。噴き出しそうになるのを堪えながら赤い和紙に包まれている万華鏡を握り直す。しかしわざわざ俺のためにこんな貴重なものを用意してくれるとは。もう一度万華鏡を覗く。やはり中は光の反射が折り重なって幻想的な空間を生み出していた。今日貰ったものの中では一番嬉しいと思う。いや、むしろ前のものと比べてしまってはいけないような気さえもする。
万華鏡の中の光景を見ながら口を開く。

「これを用意するのは大変だったろう?」
「なっ、馬鹿なことを言うな!今日のおは朝でお前の星座はラッキーアイテムを持たないと悲惨な一日になると言っていたから同情してたまたま家にあった万華鏡を持って来」
「ああ、分かったよ緑間ありがとう」

終わりの無さそうな言い訳を遮る。気恥ずかしいのは分かるがそこまで必死にならなくても良い。遮られたことで少し落ち着いたのか緑間は再び眼鏡をあげる。こいつは冷静なのかそうでないのかよく分からないな。本当に典型的なツンデレというやつなのだなと改めて確信した。
緑間は一度息を深く吐いてから、少しだけ声を張って言う。

「お前の本当に欲しいものならそのうち嫌でも手に入る。誕生日にそんなものを貰うのはやめたほうが良いのだよ」
「……さあ、何のことかな」

緑間の発言に首をすくめてみせると怪訝に目を細められた。それでも何も言わない俺を見て呆れたのか緑間は背を向けて歩き出す。
…ああ、怒ったかな。まあでも、面白いから放っておくことにしよう。緑間には悪いけれど。
そう嬉々とした考えを巡らせて。俺もここから立ち去ろうと一歩踏み出す。その時ふと思い出したような声がこちらへ届いた。
「誕生日おめでとう」
一瞬立ち止まって、振り返ろうとしたがやめた。くすりと緩む口元を手で隠しながら歩みを速めた。


「あっ、赤司がにやついてる!変態め!」
曲がり角にさしかかったところで変人と鉢合わせした。いや、探していたところだったからちょうど良いといえばそうなのだが。とりあえず発言が気に食わなかったのでデコピン。

「担任が呼んでたよ」
「えぇやだ、行かない」
「行け」

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