12月20日。
それは俺がこの世に生まれた日だ。

そう、ただそれだけのことであって、その日が今日だからといって何をしようというわけでもない。いつものように学校へ行き、部活をやって帰る。いつも通りの一日を過ごす。確かにそのはずだった。
けど違った。
いつもと違ったのはひとつ。
家を出たら馬鹿な幼なじみがいたことだ。

「やあ赤司、お誕生日おめでとう!」

相当早くから待っていたのか、鼻を赤くして笑う。何をしているんだろうか。こんなところで、寒い中。思わず漏れた溜め息は白い。
人の家の前に立たないでくれるか、という俺の言葉を聞いているのかいないのか。寒いというのに短めにしているスカートを翻して名前はべらべら喋る。

「やっぱり一番に言いたかったから来ちゃったよ!あっ、もしかしてもう電話で祝われちゃった?でもいいよね、直接が一番だよね!」

心配しなくとも名前が一番だったと言おうか迷ったが調子に乗ると面倒なのでやめた。とにかくどこからどう見ても寒そうで少し心配になった。いや、べつに一番に祝えと言った覚えは無いし勝手に待っている彼女が悪いと思う。しかしこれで風邪をひかれてしまっても困る。仕方なく持っていたカイロを渡してやった。祝いに来た本人が貰い物を受け取るのはどうなんだと思ったが 名前が満足そうだったからまあ良いかということにする。


「よう赤司、いいところに来たな」

学校に着いて一番にかけられた声に振り返る。冬だというのに浅黒い肌をしたそいつは相変わらずやる気の無さそうな顔をしていた。なにがいいところなのか理解しあぐねながら靴を下駄箱にしまう。青峰はそんな俺をにやにやと見つつ、自分の鞄の中を漁りだした。大方プレゼントと称してゴミでもくれるつもりなのだろう。その俺の予想は見事当たったようだ。

「なんだこれは」
「今日誕生日なんだろ、やる」
「なんだこれは」
「俺のサイン」

俺にはただの数学のプリントにしか見えない。確かに名前欄にはこいつの直筆で青峰大輝と書いてあるが。おまけにそのすぐ横には赤ペンで十という数字。はて確かこれは百点満点のテストではなかったか。これはまたとんでもない数字を叩き出したものだ。呆れで何も言えない俺のもとへ再び名前がやってくる。俺の手元を見るなり表情を固まらせた。何てもんプレゼントしてるの、と青峰をバッグで叩く名前に珍しく感謝した。

「べつにいーだろ、逆に俺が赤司にまともなプレゼント渡したって気味悪がるだろ」
「たしかにね〜」
「おい名前覚えとけよ」

きゃー、と言った名前はばたばたと走ってこの場を去っていく。何がきゃーだ、と内心突っ込みつつ手にあるプリントを適当に折り畳んだ。受け取るのが予想外だったのか青峰が物珍しそうに俺を見やった。もちろん素直に受け取って終わりなわけが無いのだが。ふう、と一息ついて。

「じゃあ、これは当分部室のドアに貼っておくから」
「は!何でだよ!」
「戒めだ。もう二度とこんな点数が取れないように」

そう言って小さく折ったプリントをポケットに突っ込む。青峰は面白いほど焦っていた。自業自得である。取り返そうと必死になる青峰に少し口元が緩んだ。しかし自分の行動には責任をもつべきだ。

「これは俺にくれたんだろう、なら俺がこれをどうしようと俺の自由だ」

そうだろう、と言ってみせれば青峰はぐっと黙った。物分かりが良いものは好きだ。何だか気分が良い。
これは誕生日だからとか、そう浮かれたものではないのだろうけれど。
何が何でも取り返すべきか葛藤している青峰を置いて教室へ向かう。そう踵を返したところでもう一度名を呼ばれた。また何か言い訳でも思い付いたのかと振り向けば、どことなく言いにくそうに頭を掻きながら。

「誕生日オメデトウゴザイマス」

とても心がこもっているとは言い難い棒読みだった。しかし、しかしだ。
まさか青峰からそんなことを言われるとは思ってもみなくて。

「…ありがとう」

口元を緩ませすぎなかっただろうか。
なんてことを考えながら教室へと向かった。

誕生日なんて特に楽しいものでもないと思ったが、あんな珍しいものを見れるなら悪くないかもしれない。

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